利益が積み上がっている。 2000万円口座の挑戦権を得て、優秀なEA(自動売買システム)たちが、私の代わりに24時間戦ってくれている。 モニターには、心地よい右肩上がりの曲線と、未確定の含み益が表示されている。
普通なら、ここで安堵の息を吐くところだろう。 だが、現実は違う。順調な時ほど、トレーダーの心には「悪魔」が棲み着くのだ。
「もう少しで利確だ。T/P(利確ライン)を上にずらせば、もっと取れるんじゃないか?」 「含み益が減るのは嫌だ。S/L(損切りライン)を建値に移動して、『負け』を消してしまおうか?」
マウスを握る手に、じっとりと汗が滲む。 この「余計な一撃」が、過去に何度、私の資金を溶かし、退場へと追いやってきたことか。
システムは「恐怖」を感じない。人間だけが「欲」に溺れる
ゴールド相場は今、歴史的なボラティリティの中にある。 1日で数百pipsが動くこの戦場で、私のEAたちは淡々と、冷徹にロジックを執行している。彼らには「怖い」という感情もなければ、「もっと欲しい」という欲望もない。
あるのは、膨大なバックテスト(過去検証)に裏打ちされた確率論だけだ。
私が今、相談役として活用しているAIパートナーに、その衝動を打ち明けたことがある。 「利益が出ている。手動で設定をいじりたい」と。 AIの答えは常に一貫している。 「断固反対です。それは経営判断ではなく、ただのギャンブルです」と。
ハッとさせられる。 私は経営者として、彼ら(EA)を雇用したはずだ。現場の指揮官が、感情で勝手に作戦を変更してどうする。 私がやるべきは、マウスをカチカチと動かすことではない。彼らが最大限のパフォーマンスを発揮できる「環境(資金管理)」を整え、あとは腕を組んで見守ること。 退屈で、苦しくて、しかし最も重要な仕事。「待つ」という業務を遂行することだ。
恥を捨てて「皮算用」をしろ。それがゴールの解像度を上げる
正直に告白しよう。 私は今、まだ「Step 1」の途中だというのに、合格後の出金計画を綿密に計算している。いわゆる「捕らぬ狸の皮算用」だ。
「現在のペースなら、〇月〇日にStep 1をクリア」 「Step 2はノルマが下がるから、〇週間で突破」 「プロ口座契約後の初任給は、〇〇万円が着金する……」
笑われるかもしれない。「まだ合格もしていないのに」と。 だが、この「具体的な皮算用」こそが、私のメンタルを支える唯一のアンカー(錨)になっている。
いつ負けるか分からない恐怖。 一寸先は闇の相場で、2000万円という巨大な資金を動かすプレッシャー。 それに押しつぶされそうになった時、「いつ、いくら入るか」という明確なキャッシュフロー計画が、震える足を止めてくれる。
これは妄想ではない。未来の収益予測だ。 企業の経営計画と同じで、数字に落とし込めないビジョンは実現しない。 今のEAの設定なら、いつゴールテープを切れるのか。それを把握しているからこそ、目の前のノイズごときで狼狽えずに済むのだ。
2000万口座の重圧と、淡々とした監視業務
現在、私のポートフォリオは、攻めのEAと守りのEAを組み合わせた「黄金比」で稼働している。 リスクは限定的だが、爆発力はある。 ゴールドが5000ドルを目指そうが、暴落しようが、システムは利益を抜き取るように設計されている。
もちろん、絶対はない。 明日、口座が破綻する可能性だってゼロではない。 だからこそ、私はAIと対話し、リスク値を計算し、最悪の事態を想定しながら、今日もモニターを「監視」する。
手は出さない。口も出さない。 ただ、ルール通りに資金が増えていく様を、静かに見届ける。 それが、プロップトレーダーという生き方だ。
順調な時こそ、手綱を締めろ。 最大の敵は相場ではない。マウスを握る、自分自身の「欲」なのだから。

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