【第44話】神様は覚悟を試す。555円の賽銭と、不登校の息子がくれた「9800円」の雪解けサイン

覚悟を決め、神前に誓いを立てた直後、人生は得てしてとんでもない試練を投げつけてくる。まるで「お前のその覚悟は、本物か?」と試すかのように。

吉日が重なる特別な日、私は地元の氏神様へ足を運んだ。「いかなる波風が立とうとも、私が家族のすべてを受け止める防波堤になる」と宣言し、財布にあった555円を賽銭箱に投げ入れた。555という数字が持つ「大きな変化と前進」という意味に、自らの魂を乗せたのだ。

しかし、その数時間後。私の決意を鼻で笑うかのように、現実が大きく牙を剥いた。

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突然訪れた「バトン」と、大黒柱としての真の試練

夕方、会社の代表であり、これまで共に屋台骨を支えてきた父が高所から転落し、肩を粉砕骨折した。手術が必要で、数ヶ月の実戦離脱。命に別状はなく本人の心は折れていなかったことが唯一の救いだが、これは単なる不運な事故ではない。

「今日からお前が、名実ともにすべての重責を背負い、一族を守り抜け」という、運命からの強烈なバトンタッチだと直感した。

防波堤になると誓ったその日のうちに、強大な嵐が吹き荒れる。だが、ここでたじろぐわけにはいかない。ビジネスの世界で数々の修羅場を潜り抜けてきた経験が、私の思考を極めて冷静に保っていた。困難は、逃げれば永遠に追ってくるが、正面から抱きしめればただの「乗り越えるべきタスク」に変わる。私がすべてを背負う。その覚悟が、さらに一段深く腹に落ちた瞬間だった。

息子からの「9800円」の請求。それは確かな雪解けの合図

嵐が吹き荒れる中で、一筋の温かい光も差し込んだ。 現在、心をすり減らし、大好きな部活から離れて立ち止まっている長男が、久々に自分から話しかけてきたのだ。

「電子コミックに課金したい」

金額にして9800円。世間の親からすれば、学校には行きだしたが、部活は休んでいる子供からの課金の要求など、言語道断かもしれない。だが、どん底の精神状態にあった子供が、自らの欲求を外に出し、親を頼ってきた。これは、我が家が彼にとって「絶対に否定されない、安全なホームベース」として機能し始めたという、何よりの証拠なのだ。

私は迷わず課金に応じた。そして、喉まで出かかった「野球もそろそろ頑張れよ」という親としての欲を完全に飲み込み、ただ一言、こう呟いた。

「テスト、よく逃げずに受けたもんな。頑張ったな」

今の彼に必要なのは、未来へのプレッシャーではない。今、ここにある自分を無条件に承認してくれる親の存在だけだ。この9800円は、彼の心への最高の投資であり、親子の間にあった分厚い氷が確実に溶け始めた、確かな合図だった。

息子不在のグラウンドへ。妻の涙と親の孤独

明日はいよいよ、高校野球のシーズン開幕を告げる、今年初の練習試合だ。 しかし、そこに我が子の姿はない。私は保護者会の役員という立場上、早朝から準備に向かい、息子がいないグラウンドで試合を見届けることになる。

この現実を前に、妻は明らかに心を乱し、不機嫌になっている。だが、俯瞰して見れば、その不機嫌の正体は私への怒りではない。「我が子だけが取り残されていくのではないか」という焦りや、世間の冷たい目に晒されることへの、母親としてのやり場のない恐怖と悲しみなのだ。

だからこそ、私は妻に正論をぶつけることはしない。

外の冷たい風は、俺が全部引き受ける。あいつがいつでも戻れる居場所は、俺がグラウンドで死守してくるから、お前は外の目を気にせず、家の中という温かい世界だけを守ってくれ。

そう心の中で誓い、妻を外の重圧から完全に隔離する。それが、大黒柱としての私の役目だ。

逃げない。我が子の「空席」は俺が死守する

子供が立ち止まった時、親も傷つくのを恐れて一緒にグラウンドから逃げ出してしまえば、いざ子供が「戻りたい」と思った時、そこにはもう彼の居場所はない。

だから私は明日、胸を張ってグラウンドへ行く。周囲がどう思おうと関係ない。我が子がいつ戻ってきてもいいように、そこに彼の「空席」を温め続けること。それが、今私にできる最大のオフェンス(攻撃)であり、ディフェンス(防御)なのだ。

今、同じように子供の不登校や挫折で苦しみ、先が見えない暗闇の中にいる親御さんたちへ伝えたい。 試練は、それを乗り越えられる覚悟を持った者の前にしか現れない。子供の歩みが止まっても、親としての歩みは絶対に止めるな。どんなに孤独でも、どんなに泥臭くても、どっしりと構えて我が子の防波堤になろう。

私たちが諦めない限り、子供の人生のスコアボードに、必ず再び熱い火が灯る日は来る。明日も私は、我が子のために、泥だらけのグラウンドへ向かう。

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