「おはよう」
返事はない。
「おかえり」
目も合わない。
息子は今、俺のことを徹底的に無視している。
あの幻覚騒ぎの夜、俺に泣きついた自分が恥ずかしいのか。
それとも、父親という存在自体が今の彼には重たいのか。
正直、寂しい。
自分の家なのに、俺だけが透明人間になったような気分だ。
「俺はここまで我慢しているのに」と、声を荒らげたくなる瞬間もある。
でも、俺は何も言わない。
「高性能なラジオ」になって、一方的に挨拶を投げ続けるだけだ。
目次
「俺にはできないこと」をする妻
俺には口を利かない息子だが、妻とは話す。
妻が聞けば、「一人で寝れる」と本音を言うし、学校の進路調査のことも話すようだ。
今の我が家は、完全に分業制だ。
息子を受け止め、ガス抜きをする「妻」。
その輪に入らず、空気のように見守る「俺」。
ふと、「俺は父親として何もできていないんじゃないか」と無力感に襲われることがあった。
でも、今日気づいた。
俺が手を出して「おい、どうなんだ」と介入したら、息子の逃げ場がなくなる。
俺が「無視される役(壁)」に徹しているからこそ、息子は安心して妻に甘えられるのだ。
最強のバッテリー
野球で言えば、妻がマウンドでピンチを凌いでいるピッチャー。
俺はベンチで、じっと戦況を見つめ、いつでも妻を支えられるように準備する監督だ。
もし俺一人だったら、とっくに家族は崩壊していただろう。
妻がクッションになってくれているおかげで、息子は今日、電車に乗って学校へ行けた。
「俺では何もできません」
そう妻に言ったら、妻は笑っていた。
それでいい。
母ちゃんがエースだ。
俺は、母ちゃんが倒れないように、全力で後ろから支えるよ。
いつもありがとう。