野球の熱中症対策は気温だけで決めない|WBGTを「開始前・途中・再開前」に記録する3列シート

測定・判断・次回確認のカードとWBGT計・時計で暑さ判断の流れを示すアイキャッチ

天気予報は見た。飲み物と氷も用意した。それでも、練習や試合を始めてから暑さが増したとき、誰が止めるのか。休憩後に再開してよいかを、何で判断するのか。

野球現場の熱中症対策で先に決めたいのは、気合いや水筒の本数ではありません。現地の暑さ指数(WBGT)をいつ測り、誰が活動内容を変え、次にいつ確かめるかです。

2026年4月28日付のスポーツ庁の依頼は、活動の場所や種類にかかわらずWBGTに基づいて活動実施を判断し、時間帯の変更、運動負荷の軽減、中断・中止などを検討するよう示しています。全日本軟式野球連盟(JSBB)も同年6月17日、2026年事業の熱中症事故防止通知を公開しました。[1][3]

この記事では、公式資料を次の3列へ落とします。

  1. いつ・どこで測ったか
  2. WBGTと選手の状態から何を決めたか
  3. 次に誰がいつ確認するか

これは医療診断表でも、JSBBの公式様式でもありません。地域大会やチームの独自ルールを置き換えず、予報・現地測定・活動判断をつなぐための編集部作成シートです。

目次

まず、気温とWBGTを同じ数字として扱わない

気温・湿度・日射や輻射とWBGTの違いを示す比較図

暑さ指数(WBGT)は気温と同じような数値で表示されますが、気温そのものではありません。環境省は、WBGTが湿度、日射・輻射などの熱環境、気温を取り入れた指標だと説明しています。[4]

同じ気温でも、湿度が高い、日差しが強い、風が弱いといった条件で身体への熱負荷は変わります。だから「最高気温が何度なら練習中止」と気温だけで決めると、現地の危険を取りこぼす可能性があります。

日本スポーツ協会(JSPO)の運動指針は、環境条件の評価にはWBGTが望ましいとし、次の目安を示しています。[4][5]

WBGT 運動指針 現場での読み方
21未満 ほぼ安全 危険がゼロという意味ではない。適宜、水分・塩分を補給する
21以上25未満 注意 兆候に注意し、運動の合間に積極的に水分・塩分を補給する
25以上28未満 警戒 積極的に休息。激しい運動では30分おきくらいに休息する
28以上31未満 厳重警戒 激しい運動や持久走などを避け、10〜20分おきに休憩。暑さに弱い人は軽減または中止
31以上 運動は原則中止 特別の場合以外は中止。特に子どもは中止すべきとされる

ここで大事なのは、表を「31未満なら実施できる許可証」にしないことです。体調不良、暑さへの不慣れ、防具、運動強度、休憩場所などによって、数値が同じでも判断を厳しくする必要があります。

JSBBの全国大会運用から学べるのは「一度で終わらせない」こと

JSBBの熱中症予防対策ガイドラインは、学童・少年部の全国大会で、競技日ごとに全会場・全試合でWBGTを測る方針を示しています。6イニング制では試合前、2回終了後、4回終了後、試合終了後の4回。7イニング制も4回、9イニング制は5回を基本としています。[2]

この回数を、すべての地域大会や日常練習の義務としてそのまま当てはめることはできません。JSBBの全国大会における運用だからです。

ただし、考え方は参考になります。

  • 開始前に一度測って終わりにしない
  • 活動の途中でも測る
  • 延長や活動時間の長期化で再計測する
  • 数値だけでなく、休憩・冷却・体調変化を同時に見る

環境は活動中にも変わります。朝の予測値、球場到着時の値、正午前後のグラウンド付近の値を同じものと扱わないことが、運営の第一歩です。

使うのは「測定・判断・次回」の3列

測定、判断、次回確認の三列を矢印で結ぶ記録図

以下は公式様式ではなく、指導者・運営担当・保護者が同じ判断過程を確認するための記録例です。

測定:時刻・場所・WBGT 判断:活動と体調 次回:時刻・担当・条件
8:00/活動場所付近/24 軽い準備から開始。全員の睡眠・食欲・体調を確認 8:30/安全担当/準備運動後に再測定
8:30/同じ位置/26 強度を下げ、休憩を前倒し。水分・塩分と日陰を確認 9:00/安全担当/数値上昇または体調変化なら即時確認
9:00/同じ位置/28 激しい運動を中止。日射を避けて休憩・冷却 9:15/責任者/継続・内容変更・終了を再判断

数値は架空の記入例です。実際の活動可否を決める値ではありません。チームの規程、施設のルール、主催者の指示、最新の公式情報を優先してください。

1列目:測定条件を残す

WBGTの数字だけを書いても、どの時点と場所の値かが分からなければ再現できません。

最低限、次を残します。

  • 時刻
  • 測定場所
  • 実測か環境省の予測か
  • WBGT
  • 測定担当

JSBBは全国大会の計測で、計測器を地上から1.1〜1.5メートルの高さに置き、活動に支障がなく、運動実施場所になるべく近い所で測るとしています。[2]

チームが計測器を使う場合は、製品の説明書と施設ルールにも従います。日なたで活動するのに、冷房の効いた室内や遠く離れた駐車場の数値だけで判断しないようにします。

2列目:数字と行動をつなぐ

「WBGT 28」と書いて終わりではありません。その数値を受けて、何を変えたかを残します。

  • 活動を中止した
  • 激しい運動をやめ、軽いメニューへ変更した
  • 休憩を前倒しした
  • 防具を外せる休憩環境へ移した
  • 日射を遮り、風通しのある場所で身体を冷却した
  • 体調不良者を活動から外した

JSBBの全国大会ガイドラインは、WBGT28以上でクーリングブレイクを設け、日射を遮り、風通しのよい環境で休ませることを示しています。また、その時間を指導者の作戦タイムに使わないよう明記しています。[2]

休憩中に長い指示を聞かせれば、選手は身体を冷やす時間を失います。クーリングブレイクの目的は作戦確認ではなく、給水と身体冷却です。

3列目:再開条件ではなく、次の確認を決める

よくある空欄が「次にいつ測るか」です。

休憩開始時のWBGTを記録しても、再開前に再確認しなければ、その間の変化を見落とします。次回欄には、時刻だけでなく次を置きます。

  • 再測定する担当者
  • 活動変更を決める責任者
  • 予定時刻より前に確認する条件
  • 中止後の連絡担当

たとえば、体調不良の訴え、数値の上昇、日差しや風の変化、守備時間の長期化があれば、予定した時刻を待たずに確認します。

予報・アラート・現地測定の役割を分ける

三つは競争する情報ではありません。使う時点が違います。

情報 主な役割 できないこと
環境省のWBGT予測 前日・当日の時間変更、中止連絡、物品準備 活動場所の瞬間的な実測を完全に代替しない
熱中症警戒・特別警戒情報 広い地域で対策を強める判断 発表がないことを個別会場の安全保証にしない
現地のWBGT計測 その場所、その時点での活動判断を補助 選手個人の体調や症状を診断しない

スポーツ庁は、開催時間帯をずらす、運動負荷を軽くする、被害のおそれがあれば中断・中止するなど、開催方法の検討を求めています。[3]

つまり、当日現地で「危険だから何とかする」だけでは遅い場合があります。予測が高ければ、集合前に時間変更や中止を伝える。現地では実測と体調を確認する。活動中も再計測する。この三段階が必要です。

測定担当と中止判断者を一人に抱え込ませない

測定担当・判断責任者・救護・連絡の四役を分ける図

記録表があっても、担当が曖昧なら使われません。

活動前に、少なくとも次の役割を決めます。

役割 担当すること
測定担当 決めた時点・場所で測り、数値と条件を記録する
判断責任者 公式指針、主催者規程、体調情報から変更・中断・中止を決める
選手確認担当 睡眠、食欲、発熱、下痢、疲労、本人の訴えを確認する
冷却・救護担当 日陰、冷房空間、冷却物品、緊急連絡と搬送経路を確認する
連絡担当 保護者・関係者へ変更、中止、迎え等を伝える

少人数の運営では兼任が必要なこともあります。その場合でも、「誰かが見る」ではなく名前または役割名を事前に書きます。測定担当が試合進行で動けない場合の代替担当も決めておきます。

「水を飲めば続けられる」とは限らない

水分・塩分補給は重要ですが、活動継続の免罪符ではありません。

JSPOは、疲労、睡眠不足、発熱、風邪、下痢など体調が悪いときは無理に運動しないとしています。また、暑さに慣れていない人などは注意が必要です。[5]

次のような考え方は避けます。

  • 飲み物を用意したから実施できる
  • 全員同じ量を飲ませればよい
  • 本人が「大丈夫」と言えば続けられる
  • 休憩を一回取ったから再開できる
  • WBGT31未満だから安全である

個人差を、根性や我慢の差に置き換えないこと。数値と全体運用に加えて、活動前・中・後の健康確認を続けます。

症状が出たら、記録より救護を優先する

3列シートは事故を診断する道具ではありません。熱中症が疑われるときは、記録を完成させるより、活動を止めて救護へ移ります。

JSPOのガイドブックは、少しでも意識障害があれば熱射病を疑い、救急車を要請して涼しい場所へ移し、速やかに身体冷却を行うとしています。意識が正常でも、吐き気などで自力の水分補給ができない場合は医療機関への搬送が必要としています。[5]

現場で症状の重さを断定したり、「少し休めば復帰できる」と決めたりしません。処置で改善したように見えても、JSPOは当日のスポーツ参加を中止し、少なくとも翌日まで経過を見るよう示しています。[5]

緊急時の連絡先、救急車を呼ぶ人、入口で誘導する人、保護者へ連絡する人を、活動開始前に決めてください。

よくある失敗と修正

失敗1:朝の天気予報だけで一日を決める

予報は事前変更に使い、現地では活動場所に近い条件で再確認します。活動中の再計測時刻も開始前に書きます。

失敗2:WBGTの数字だけをグループへ送る

数字に「中止・軽減・休憩」「次回確認時刻」「判断者」を添えます。判断のない数値共有では行動が分かれます。

失敗3:クーリングブレイクをミーティングにする

冷却、給水、体調確認を優先します。技術指導や長い作戦確認を入れません。

失敗4:主力選手だけ体調を聞く

選手、控え、審判、指導者、運営担当も暑熱環境にいます。活動参加者全体を確認対象にします。

失敗5:一度中止した後、時刻だけで再開する

「30分たったから」ではなく、最新のWBGT、体調、休憩・冷却環境、主催者や施設の判断を再確認します。数値が下がったことだけで個人の復帰可否を決めません。

活動前15分で作る確認メモ

活動日:
活動場所:
主催者・施設の中止基準:

予報確認時刻/WBGT予測:
現地測定時刻/場所/WBGT:

本日の活動判断:
変更した運動内容:
休憩・冷却場所:

次回測定時刻:
測定担当:
判断責任者:
選手確認担当:
救護・連絡担当:

予定前に再確認する条件:
中止時の連絡方法:

最初から完璧なマニュアルを作る必要はありません。まず、開始前・途中・再開前の三つの時点を空欄にせず、測定担当と判断責任者を決めます。

FAQ

WBGTが31未満なら、子どもの野球は実施できますか?

31未満を実施許可とは扱えません。JSPOは28以上31未満で激しい運動を避け、頻繁な休息と水分・塩分補給を求めています。体調、暑さへの慣れ、運動強度、主催者・施設の基準も合わせ、より厳しく判断する場合があります。

環境省の予測があれば、現地で測らなくてもよいですか?

予測は時間変更や中止連絡に有用ですが、活動場所のその時点の条件を完全に置き換えるものではありません。可能な範囲で現地条件を確認し、活動中も再確認します。

JSBBのクーリングブレイクを練習でも同じ回数行えば十分ですか?

JSBBガイドラインの具体的な回数は全国大会の試合運用です。日常練習へ同じ回数を義務として一般化しません。JSPOの運動指針、チーム・施設の規程、活動強度、実測値、体調を基に、休憩間隔と活動内容を決めます。

水分を飲めたら練習へ戻れますか?

飲めたことだけで復帰可否は決まりません。意識、症状、体調、環境を確認し、疑わしい症状があれば活動を中止して救護・医療判断を優先します。個別の復帰判断をこの記事では行いません。

まとめ:測った数字を、次の判断までつなぐ

野球の熱中症対策は、気温予報や飲み物の準備だけでは完了しません。

  • 気温とWBGTを混同しない
  • 予測は事前変更、現地測定はその場の判断に使う
  • 開始前の一回で終わらず、活動途中と再開前にも確認する
  • 数字に活動変更と次回確認を結びつける
  • クーリングブレイクを作戦タイムにしない
  • 症状が出たら記録より救護を優先する
  • 数値だけで個人の体調や復帰を判断しない

今日作るのは、大きな安全マニュアルではなくても構いません。「測定」「判断」「次回」の3列を一枚にし、空欄の担当者を決める。それが、暑さを誰かの我慢に任せない最初の一歩です。

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雷が近づいた場合の停止・避難・再開は、雷鳴が聞こえたら野球練習はどう止める?で確認できます。暑さと雷は別の危険なので、それぞれの停止基準と連絡担当を分けて準備してください。

出典

  1. 全日本軟式野球連盟「2026年事業実施における熱中症事故防止について(通知)」(2026年6月17日)
  2. 全日本軟式野球連盟「JSBB熱中症予防対策ガイドライン」(令和7年5月1日時点)
  3. スポーツ庁「熱中症事故の防止について(依頼)」(令和8年4月28日)
  4. 環境省「暑さ指数(WBGT)について」
  5. 日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック(第6版)」(令和7年6月発行)

確認日:2026年8月4日

※本記事は一般的な安全情報です。大会・施設・チームの最新規程と主催者の指示を優先し、個別の症状、治療、競技復帰は医療専門職等へ相談してください。

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