停電で工場の機械が動かない。作業を再開できるかを決めたいのに、従業員の安否、取引先への連絡、手元の資金を、それぞれ別の人しか知らない。中小企業の備えで怖いのは、分厚い計画書がないこと以上に、判断に必要な情報が一人の頭や一台のパソコンへ集まっていることだ。
最初のBCPは、人と指揮、残す仕事、代替手段、連絡、資金と再開の五つに分ける。「誰が・何を見て・いつ判断するか」を各紙に置き、社長が不在でも安全な初動が取れるようにする。五枚は正式な制度申請書の代わりではなく、自社の空欄を見つけるための出発点だ。
災害発生中にこの記事を読んでいる場合は、人の安全と自治体・気象庁の最新情報を優先してほしい。建物への立入り、出社、設備の再稼働を、この一般記事だけで判断しない。ここでは平常時に使う準備表を作る。中小企業庁のBCP策定運用指針と事業継続力強化計画の案内を踏まえたが、認定申請が目的なら現行の手引きを別途確認する。
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計画書の厚さより、判断が止まる場所を探す

会社が止まる理由は建物の被害だけではない。従業員が出社できない、仕入先が止まる、通信が切れる、設備の点検が終わらない、決済や業務データに入れない。中小企業庁の指針は、中核事業を選び、必要な人・物・情報・資金を把握し、代替策を決める順序を示している。何でも守る計画にすると、限られた人員が分散して肝心の仕事を戻せない。
まず一つの仕事を例に取る。注文を受け、材料を調達し、製造し、納品し、請求する。その途中のどこが欠けると、今週の約束が守れなくなるだろう。顧客名や金額を公開用の表へ書く必要はない。社内で権限を限定した一覧に、業務、停止条件、代替手段、連絡担当をつなぐ。資料の所在と判断者を分けて書くのがコツだ。「社長に聞く」は連絡が取れない日に機能しない。
五枚という数は法定の書式ではない。初動で別々に確認すべき問いを、机上に並べられる大きさに切ったものだ。机に紙を置いても、最新版が見つからないなら役に立たない。電子版の保存先、紙の保管場所、改訂担当と改訂日を決める。緊急連絡先など個人情報を含む原本は公開サイトや誰でも見られる共有フォルダーに置かない。
作る順番も重要だ。いきなり備蓄品の一覧から始めると、何日、どの仕事を、誰が続けるための物なのかが決まらない。まず人の安全と重要業務を決め、その仕事を動かすのに欠かせないものを三枚目へ移す。例えば「顧客への納期回答」を残すなら、受注情報へ入る権限、顧客窓口、回答できない場合の連絡文が必要になる。備品の購入はその後に考える。買った品物の数ではなく、仕事を安全に続ける経路がつながったかで見直したい。
一枚目は人と指揮、二枚目は残す仕事

一枚目――人の安全と決める人
最初に安否確認の責任者、その人が対応できない場合の第一・第二代行者、確認手段と代替手段を書こう。「全員に一斉連絡」だけでは、通信障害時や未返信者の扱いが空白になる。確認済み、個別対応が必要、未確認を分け、誰が再連絡するかを決める。出社の可否と操業停止も別の判断だ。自宅や通勤路が危険な人を、事業再開のために呼び戻す設計にはしない。
建物や機械の安全確認をする人も明示する。見た目に壊れていないことと、使用できることは同じではない。管理者や必要な専門家の確認が要る対象を先に区分する。ここでの一枚目は人事名簿の複製ではなく、「今、誰に判断を渡すか」の地図である。個人の電話番号や健康情報は、利用する担当者を絞って安全に保管する。
二枚目――止める仕事と残す仕事
すべての業務を同時に再開する前提を外す。仕事ごとに、止めた場合の影響、最低限残す内容、停止条件、再開条件、責任者と代行者を一行で書く。たとえば製造そのものを止めても、従業員の安全確認と、納期変更が必要な顧客への連絡は残せる。逆に安全確認が終わらない設備を、納期だけで動かしてはいけない。
優先順位は売上の大きさだけで決めない。人命・安全、顧客への約束、社会的な責任、代替できるか、資金への影響を見て経営者が判断する。中小企業庁は中核事業の特定をBCPの入口に置く。自社の数字や契約を知らない外部記事が「この業務を最優先」と断定することはできない。二枚目は、その判断を社内で説明できる形にするための表だ。
「最優先の仕事」を一つだけ書くなら、再開に必要な最小人数と、代行できる人まで続けて書く。人数を決めずに「早く再開」とだけ書いても、当日に出社できる人だけで安全にできるか分からない。また、急がなくてよい仕事をあえて止める判断も必要だ。人員や電力を重要業務に回せるからである。通常の部署名ではなく、仕事の流れで区切ると、ある工程の停止が次の工程を止める関係も見えやすい。
三枚目は代替手段、四枚目は連絡の順番

三枚目――一本足を見つける
人、作業場所、設備、電気や水、通信、業務データ、認証、仕入れ、物流。各行に「普段の方法」「使えないときの影響」「代替策」「実行担当」「最終確認日」を置く。代替策がない行は、無理に「対応可能」と埋めず空欄として残す。代替先の名前だけを書いても、そこに作業できる人、材料、電源、権限がなければ動かない。中小企業庁の代替策の指針も、必要情報と人員、代替の手順を組み合わせて考える。
データの欄は「クラウドにある」で終わらせない。停電時に使う端末、ネット接続、複数人の正規権限、バックアップから必要なファイルを開けるかを確認する。認証情報の共用やパスワードの紙への貼り出しは代替策ではない。権限を持つ担当者が不在なら、正規の管理手順で復旧できるかを平常時に確かめる。機械や建物の代替は、安全確認と取引先の承認が必要な場合もある。
四枚目――誰に、何を、いつ伝えるか
従業員、主要顧客、仕入先、物流、金融機関、保険会社など、連絡相手を目的別に分ける。各相手について発信責任者、第一手段、使えないときの手段、伝える範囲、次に更新する時刻を決める。「復旧は未定」でも、それが現時点の事実なら、次の連絡予定とセットで伝えられる。未確認の納期や被害額を安心させるために言い切らない。
顧客向けなら「現在確認できている提供範囲」「出荷・納品への影響」「次回連絡時期」を分ける。従業員向けは出社命令より安全と連絡方法が先だ。顧客の連絡先や取引条件を五枚の一般公開版へ混ぜず、保護した社内原本から参照する。連絡文を短くしておくほど、担当者が替わっても内容がぶれにくい。
連絡表は一度送れば終わりではない。最初の情報が変わったとき、誰が訂正を出すかまで決める。同じ取引先へ営業、現場、経営者が別々の復旧見込みを伝えれば、混乱が大きくなる。窓口を一本化し、回答の根拠と確認時刻を内部に残す。連絡不能だった相手は「連絡済み」と数えず、代替手段と再試行の担当を記す。これは責任逃れの記録ではなく、次に動く人へ空白を渡すための記録だ。
五枚目の資金と再開条件まで書いて初動を閉じる

操業を止めても給与、家賃、仕入れ代金、借入返済は待ってくれない場合がある。五枚目には確認できる預金・現金、予定入金、主要支払い、期限、確認担当と代行者、未確認事項を並べる。資金が何日持つかをこの記事の仮の数字で決めない。自社の支払予定と契約を見て、判断が必要な日を確定する。融資や保険は、利用可能と推測せず契約・公式窓口で条件を確認する。
再開を決める欄には、人、建物、設備、通信、データ、仕入れ、顧客連絡を置く。それぞれ「誰が確認したか」「どの範囲なら安全に動かせるか」を書く。全体が一度に戻らないなら、必要な仕事から段階的に始め、未確認部分は停止したままにする。ここでも結果の証拠は「計画書に再開と書いた」ことではなく、現場と相手先で実際に確認できた状態だ。
この五枚目を経理だけの仕事にしない。支払いの優先順位には契約、雇用、資金調達、顧客への説明が絡む。経理担当は数字と期日を示し、経営者または定めた代行者が判断する。数字が取れない欄は推計値と確定値を混ぜず「未確認」と書く。保険金の入金時期や支援制度の利用を、審査前から手元資金に足さない。資金表は希望的観測を消すためのものでもある。
コピーして使う5枚の記入用シート
下の枠を社内文書へコピーし、①〜⑤をそれぞれ一枚に分けて使ってください。停電を想定した平常時の下書きです。まずは役職で担当を埋め、電話番号や顧客名は閲覧を絞った別名簿の参照先だけを記します。空欄は「確認不要」ではありません。分からない欄には「未確認」と、次に確かめる担当・時刻を残します。
【共通欄】 対象の拠点・業務:__ 作成・更新日:__ 原本の保管先/閲覧できる役職:__ 紙の保管場所/電子版を開く正規の手順:__ ① 人の安全と指揮 安否確認の責任者:__ 第一代行者/第二代行者:__/__ 確認手段/使えない場合の手段:__/__ 安否の状況(確認済・個別対応が必要・未確認):__ 未確認者へ再連絡する担当/次の確認時刻:__/__ 建物・設備の安全確認を渡す管理者・専門家:__ 出社・立入り・使用可否で未確認の点:__ ② 止める仕事と残す仕事 業務名:__ 止まると何に影響するか:__ 止める範囲/最低限残す仕事:__/__ 必要な人数・担当/代行できる役職:__/__ 停止条件:__ 再開条件/判断者・代行者:__/__ 判断の根拠・確認日時:__ 未確認の点/次に確認する担当・時刻:__/__ ③ 代替手段 対象(電源・通信・データなど):__ 普段の方法/使えないときの影響:__/__ 代替方法(なければ「なし」、不明なら「未確認」):__ 実行担当/必要な正規の権限:__/__ 実際に使えるかを確かめる方法:__ 最終確認日・結果:__ 未確認の点/次に確認する担当・時刻:__/__ ④ 連絡の順番 相手の区分(従業員・顧客など):__ 連絡先を保管した別名簿の参照先:__ 発信責任者/代行者:__/__ 第一の連絡手段/使えない場合の手段:__/__ 今、確認できている事実:__ 相手への影響/まだ分からないこと:__/__ 次に情報を更新する時刻:__ 連絡の結果(伝達済・連絡不能)と確認時刻:__ 訂正・再連絡の担当/次の確認時刻:__/__ ⑤ 資金と再開条件 今使える資金/確認日時・根拠:__/__ 今後の入金予定(未入金)/確認できた条件:__/__ 支払い項目/金額/期限:__/__/__ 資金を確認する担当/判断者・代行者:__/__ 資金面の未確認事項/次の確認担当・時刻:__/__ 再開する業務・範囲:__ 人・建物・設備・通信・データ・仕入れ・顧客連絡の確認結果:__ 再開条件を確認した人/確認日時・根拠:__/__ 未確認のため停止を続ける範囲:__ 再開を判断する人/次の確認時刻:__/__
架空の記入例なら、③の対象を「受注情報」、影響を「停電で一覧を開けず、納期を回答できない」と置くところから。代替方法が未確認なら、そのまま書いて確認担当へ渡します。「使えるはず」で欄を埋めないのがコツです。記入を終えたこと自体は、建物への立入りや設備の再稼働を許可するものではありません。
| 判断 | NG(✕) | OK(◯) |
|---|---|---|
| 人 | 返事がない人を出社可と数える | 未確認として再連絡と代行を決める |
| 設備 | 見た目だけで稼働する | 必要な安全確認後に範囲を決める |
| 顧客 | 未確認の納期を約束する | 分かった範囲と次回更新を伝える |
| 資金 | 支払予定を頭の中だけで管理 | 金額・期日・確認者を分ける |
この五枚は安全点検、避難指示、建物・設備の使用可否判定、保険や公的支援の認定手続きを代替しない。実際の災害では公的な最新情報と専門家・管理者の判断を優先する。従業員や取引先の個人情報を含む原本は権限を限定して保管する。
最初の一晩で完成させる必要はない。五枚を作り、空欄と担当者不在時に困る欄へ印を付ける。翌日、関係者と「連絡できるか」「必要な情報を開けるか」「代替先が実際に使えるか」を短く試す。机上の確認結果を直し、改訂日を残す。制度上の認定を目指す場合は、中小企業庁の現行手引きで申請要件を別に確認してほしい。五枚は現場の初動を止めないための入口である。
よくある質問(Q&A)
五枚だけで正式なBCPや認定計画になりますか?
五枚は自社で空欄を見つける作業用。正式なBCPの十分性や事業継続力強化計画の認定を保証しない。対象制度の現行手引きと自社の事情に沿って必要な項目を補う。
紙とクラウドのどちらに置くべきですか?
一方だけに決めず、停電、通信停止、持ち出し制限、個人情報保護を考えて必要な人が安全に使える形を選ぶ。紙の所在と電子版の正規アクセス方法を、担当者と代行者が把握しているか試す。
参照した公的案内の確認日は2026年9月26日。個別の制度、災害情報、設備安全は実施時に公式の最新情報を確認する。
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連絡先やバックアップ先を書いて終わりにせず、全社の計画に広げたいなら、収録書式を自社の事業に合わせて検討してください。担当者の引き継ぎ資料を作る次の一歩にも向く教材です。
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小さな会社では、社長が知っていることと、会社が使える情報は違う。自分が返事をできない日に、誰が従業員の安全を確かめ、誰が取引先へ今分かる範囲を伝えるのか。そこを紙に落とす作業は、格好のよい「防災宣言」より地味だ。でも、地味な準備で判断を一つでも前へ進められるなら、やる価値がある。経営と家族の間で考えたことは『親父の奮闘記』にも残している。

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