先日、自分のインスタグラムのDMに「投資コンサルタント」を名乗るアカウントからメッセージが届いた。プロフィール写真は爽やかな笑顔のビジネスマン、経歴には海外の有名金融機関の名前が並び、投稿には「月利20%達成」のスクリーンショットが並んでいた。正直に言うと、一瞬だけ指が止まった。FXで日々ロットと向き合っている自分でさえ、一瞬「話だけ聞いてみようか」と思わせる作りになっていたからだ。
もちろんブロックした。だが、この一瞬の迷いこそが、今この国で大量の被害を生んでいる入口なのだと、後で調べて改めて実感した。
被害額は年間1,274億円、過去最悪を更新
警察庁が公表した令和7年(2025年)の暫定値によると、SNSを入口にした投資詐欺・ロマンス詐欺の被害額は合計で1,274.7億円、認知件数は9,538件にのぼる。前年比でそれぞれ約46.3%増、約48.7%増という急増ぶりだ。特殊詐欺全体と合わせた被害総額は3,241.1億円となり、過去最悪を大幅に更新した(出典: 警察庁 SOS47、時事通信)。
内訳として特に自分が気になったのは、被害者との最初の接触手段だ。バナーなどの広告経由が3,760件、SNSのダイレクトメッセージ経由が3,576件で、合わせて全体のおよそ8割を占めている。つまり「怪しい情報商材サイトに自分から飛び込んだ」のではなく、「普段見ているSNSに、向こうから接触してきた」ケースが大半だということだ。YouTubeの広告バナーやInstagramのDMがきっかけになるケースが急増しているという分析もある。
これはFXで言えば、待っていれば向こうから飛び込んでくる「甘い球」だ。だが実際には、その球には見えない仕掛けが施されている。
自分がこの数字を見て真っ先に思ったのは、被害に遭っているのが情報弱者と呼ばれるような人たちばかりではないという点だ。報道では幅広い年代がターゲットになっていることが指摘されており、20代・30代の若い世代も含めて被害が広がっている。SNSを日常的に使いこなしている世代ほど、逆に「使い慣れているから大丈夫」という油断が生まれやすいのかもしれない。息子たちの世代にとっても、決して他人事ではない話だ。
手口の共通点は「勝率100%」という嘘
自分がこれまで見聞きした手口に共通しているのは、判で押したように「絶対に儲かる」「勝率100%」「元本保証」を謳っている点だ。FXやトレードを本気でやったことがある人間なら分かるが、そんな相場は存在しない。損切りのない取引などない。含み損を抱える日が一日もないトレーダーなど、この世に一人もいない。
それでも被害が拡大しているのは、最初の段階で少額の「成功体験」を実際に体験させてくる巧妙さがあるからだ。数万円を入金させ、専用アプリの画面上で本当に利益が出ているように見せる。ここで「もっと大きく賭ければもっと増える」と誘導され、追加入金を重ねさせられたところで出金できなくなる、という流れが典型パターンだ。
さらに厄介なのは、最初は「LINEグループで無料の相場情報を配信します」といった、一見無害な入口から始まるケースが多いことだ。無料の情報配信で信頼を積み上げ、数週間かけて関係性を作ってから本命の勧誘に入る。焦らせず、時間をかけて信用させる。この「じっくり型」の手口が、被害額を押し上げている一因だとみられている。相手は一発勝負ではなく、長期戦を仕掛けてくるという前提で構えておく必要がある。
自分がプロップファームの資金提供型口座に挑戦してきた経験から言えるのは、本物の投資・トレードには必ず「痛み」が伴うということだ。ドローダウンの管理、ロットサイズの制限、感情との戦い。汗をかかない利益、痛みのないリターンを謳う話には、まず疑ってかかっていい。バッティングで言えば、フォームも素振りもなしに「必ずホームランが打てるバット」を売りつけられているようなものだ。そんな魔法のバットは存在しない。
もう一つ見逃せないのが、詐欺グループがSNSの「実績投稿」を巧妙に演出している点だ。フォロワー数を購入で水増ししたアカウント、いかにも本物らしいトレード履歴のスクリーンショット、感謝の声を装ったコメント欄。どれも見た目を整えることには長けているが、共通して欠けているのは「負けた時の話」だ。本物のトレーダーは含み損を抱えた日のことも語る。損切りした悔しさも、ロットを間違えた失敗談も持っている。うまくいった話しか出てこないアカウントは、それだけで警戒に値する。
「ニセ警察」の急増という新しい手口

もう一つ、今回の統計で注目すべきなのが「ニセ警察」を名乗る手口の急増だ。投資詐欺で入金させた後、今度は「あなたの口座がマネーロンダリングに使われている」「警察が調査している」といった連絡を別人物から送りつけ、二重に金銭を騙し取る、あるいは口止めのために被害者を心理的に追い詰めるケースが報告されている。AIを使って音声や文章の説得力を上げている巧妙化も指摘されている。
これは経営でいえば、一度目の失敗に動揺している相手に、さらに畳みかけて追加のダメージを与えてくる「不誠実な取引先」の手口に近い。冷静さを失っている人間ほど、次の一手を疑う余裕がなくなる。
野球でも、エラーの後の一球ほど怖いものはない。動揺したまま次の打者と対峙すれば、連続失点につながりやすい。だからこそ、エラーをした直後こそ一度深呼吸して、守備位置とサインを再確認する。詐欺の二段構えに引っかからないためには、一度目の被害に気づいた瞬間に、感情のまま動かず、まず信頼できる第三者(警察・消費生活センター・家族)に相談することが何より重要になる。
自分の家族・従業員に伝えていること
自分はこの数字を見て、家族と従業員に改めて伝えたことが3つある。
「向こうから来た儲け話は疑う」。SNSのDMや広告経由で接触してきた投資話に、こちらから連絡先を渡さない。本当に価値のある情報は、向こうから一方的に売り込んでくることは少ない。
「元本保証・勝率100%は詐欺の合言葉」。相場に絶対はない。これを謳っている時点で、その情報源自体が信用できないと判断していい。
「一人で判断しない」。少額でも投資の話が来たら、一度誰かに話してみる。詐欺の多くは、被害者を孤立させ、誰にも相談させない状況を作ることで成立している。これは家族間でも、社内でも同じだ。
うちの会社では、この話を朝礼のちょっとした雑談として共有した。堅苦しい研修にするよりも、こういう話は日常会話の延長で共有する方が、社員の記憶に残りやすいと感じている。特に若手社員ほどSNSでの接触機会が多く、当事者意識を持ってもらう必要がある層でもある。
本物の投資教育こそが、一番の防御になる
自分が最近強く思うのは、詐欺対策として「怪しい話に近づかない」という守りの姿勢だけでは不十分だということだ。もっと根本的な防御は、本物の投資・トレードがどういうものかを知っておくことにある。
損切りには痛みが伴うこと。相場には勝率100%など存在しないこと。含み益も含み損も、日々の値動きの中で当たり前に発生するものだということ。こうした「当たり前の感覚」を持っている人ほど、詐欺師が持ちかける非現実的な話に違和感を覚えやすい。逆に、投資そのものに縁がなく、値動きの実感がない人ほど、「月利20%」という数字がどれだけ異常かを判断する物差しを持てていない。
自分は息子たちにも、将来お金と付き合っていく上で、この「物差し」を持たせてやりたいと思っている。難しい理論を教える必要はない。ただ、リスクのないリターンは存在しないという、たった一つの原則を体感として理解しているかどうか。それだけで、この先の人生で回避できる被害の数は大きく変わってくるはずだ。
見えない相手との対戦に、根性論は通用しない
甲子園を経験して痛感したのは、どんなに気合が入っていても、見えていない変化球には対応できないということだ。SNS型投資詐欺も同じで、「自分は大丈夫」という根拠のない自信ほど危ういものはない。手口を知っているかどうか、それだけで防げる被害は確実にある。
自分が本業で向き合っているFXの世界には、負けを認めて損切りするという地味だが重要な技術がある。詐欺の世界には、そもそも「勝ち負け」という健全なゲームすら存在しない。最初から一方的に奪われるだけの構造だ。だからこそ、打席に立つ前の見極めが何より重要になる。
冒頭のDMを思い出すたびに思う。あの一瞬の迷いは、決して自分が特別に警戒心が薄かったからではない。誰の心の中にも、「もしかしたら本当かもしれない」という隙は存在する。その隙を自覚しているかどうかが、被害に遭うかどうかの分かれ目になる。今日も自分は、DMの一件一件を、疑いの目で見ることを忘れないようにしている。

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