FXで調子がいい日ほど、ロットを上げたくなる。
数回続けて利益が出ると、「今ならもう少し張っても大丈夫だ」と感じる。だが、勝っている最中に見ているのは利益の山だけだ。その山の反対側に、どれほど深い谷があるのかまでは見ていない。
野球でも、3試合続けて打ったからといって、次の打席でストライクゾーンが広がるわけではない。相場も同じだ。連勝は、自分のリスク許容度を大きくしてくれる免許証ではない。
自分が先に決めるべきだと思うのは、「いくら勝ちたいか」ではなく、「口座がピークから何%減ったら一度ベンチへ戻るか」だ。その基準になるのが最大ドローダウンである。
ロスカットが守るのは、口座の最後の一線でしかない

金融庁は、FXについて、少額の資金で大きな取引ができる一方、証拠金を上回る損失が生じるおそれもある高リスクの商品だと注意を促している。個人の店頭FXでは取引額の4%以上の証拠金が必要で、レバレッジ換算では25倍以下となる。
ここで勘違いしやすいのが、「業者にロスカット制度があるから、口座管理も任せられる」という考え方だ。
ロスカットは、損失の拡大を抑えるために業者が建玉を強制決済する仕組みである。しかし金融庁も金融先物取引業協会も、相場が急変した場合には、ロスカットが実行されても預けた証拠金を上回る損失が出ることがあると明記している。
つまり、ロスカットは自分の資金管理ルールではない。車でいえば、ぶつかる直前に作動する安全装置に近い。そこへ到達する前に速度を落とすのが、運転する側の仕事になる。
経営でも、銀行残高が尽きてから資金繰りを考えるのでは遅い。FXも、強制決済の水準まで耐えることを前提にロットを決めてはいけない。
出典
最大ドローダウンは「一番深い負けの谷」

最大ドローダウンとは、口座資金がある時点のピークから、その後の底までどれだけ減ったかを示す最大の下落率だ。
計算は難しくない。
(ピーク時の資金 − その後の最少資金)÷ ピーク時の資金 × 100
たとえば、口座が100万円まで増えたあと85万円まで減ったなら、ドローダウンは15%になる。その後90万円へ戻っても、過去に15%の谷を経験した事実は消えない。
勝率だけを見ていると、この谷を見落としやすい。
10回中7回勝っていても、3回の負けが大きければ口座は減る。反対に、勝率が5割を下回っていても、損失を小さく抑え、利益を伸ばせれば資金は残る。既存の記事で扱った「勝率」と「損益比」の話を、口座全体の時間軸で見直す指標がドローダウンだ。
スコアブックに打率だけでなく、失策や失点の流れまで残すようなものだと思えば分かりやすい。大切なのは、最高残高の数字を眺めることではない。そこからどこまで崩れたのかを測ることだ。
損失が深いほど、元に戻る坂は急になる
ドローダウンが怖い理由は、同じ割合だけ勝てば元に戻るわけではない点にある。
| 資金の下落率 | 元に戻るために必要な上昇率 |
|---|---|
| 10% | 約11.1% |
| 20% | 25% |
| 30% | 約42.9% |
| 50% | 100% |
100万円が50万円になったあと、50%増えても75万円にしかならない。元の100万円へ戻るには、残った50万円を2倍にする必要がある。
ここで焦ると、ロットを上げて一気に取り返そうとする。だが、それは5点差を一振りで逆転しようとするのと同じだ。野球に5点ホームランがないように、口座の回復にも近道はない。
損失が深くなるほど、必要な回復率が急に上がる。だから資金管理では、負けたあとにどう取り返すかより、谷をどこまで浅く保つかの方が先になる。
先に決めるのは、ロットではなく許容下落幅

ロットを決める前に、3つの線を引いておく。
① 1回の取引で許容する損失
エントリー価格と損切り価格の差を決め、その損失額が口座全体に対して大きすぎないロットへ落とす。値動きが荒い通貨や時間帯では、同じロットを固定するのではなく、損切り幅から逆算する。
② 1日・1週間の停止ライン
連敗時は、相場と手法が合っていないのか、自分の判断が崩れているのかを区別しにくい。一定の損失に達したら、その日は新しい打席へ立たない。翌日になればチャートはまた開くが、減った資金は自動では戻らない。
③ 口座全体のドローダウン上限
ピークから決めた割合まで下落したら、新規取引を止めるか、ロットを縮小して検証へ戻る。上限は手法、資金の目的、生活への影響によって変わるため、誰にでも同じ数字を当てはめるものではない。
金融先物取引業協会も、FXは自己の資力、取引経験、取引目的に照らして適合性を判断し、投資金額の設定に十分注意すべきだとしている。
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取引日記には「最高残高」と「谷の原因」を残す

最大ドローダウンは、取引ツールの成績画面だけでも確認できる。ただし、数字だけでは次の改善につながらない。
取引日記には、少なくとも次の5つを残したい。
- 取引前の口座残高
- その時点までの最高残高
- 1回の予定損失額
- ルール通りの損切りだったか
- 経済指標、連続エントリー、手動介入など谷が深くなった原因
30回程度たまったら、勝ちトレードより先に、損失が連続した区間を見る。特定の時間帯だけ崩れていないか。指標発表前後で滑っていないか。負けた直後にロットを上げていないか。
この見直しは、バッティングフォームの動画確認に近い。ヒットの場面だけを集めても、弱点は見えない。空振りが続いた打席を並べたとき、初めて共通点が見つかる。
最大ドローダウンは、自分を責める数字ではない。手法と行動のどこに守備の穴があるかを教える数字だ。
生き残る口座は、勝つ前に負け方を決めている
FXでは、利益目標の方が目につきやすい。「月にいくら」「何%増やす」と決めると、前へ進んでいる感覚がある。
しかし、利益は相場が運んでくる部分も大きい。自分で決められるのは、どこで入るか、どこで降りるか、どれだけの資金をさらすかだ。
経営者が売上目標だけでなく、手元資金の最低ラインを見るように、トレーダーも利益の山だけでなく損失の谷を見る必要がある。
連勝後にロットを上げる前に、最高残高から現在残高までの差を確認する。許容する谷を越えていないかを確かめる。越えていたら、打席を増やすのではなく、スコアブックを開く。
長く残る口座は、毎回勝つ口座ではない。負けたときに、次の試合へ出られる資金を残している口座だ。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の取引や利益を推奨・保証するものではありません。FXは元本を失う可能性があるため、仕組みとリスクを理解し、ご自身の判断と責任で行ってください。

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