黒字なのに、なぜ倒産するのか。経営者が誰よりも恐れるべき「見えない三振」の話

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黒字なのに、なぜ倒産するのか。経営者が誰よりも恐れるべき「見えない三振」の話

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打率10割でも、負けることがある

野球には「野球脳」という言葉がある。技術や体力だけでなく、状況を読み、次の一手を予測する力のことだ。自分は現役時代、正直この野球脳が足りなかったと思う。四番打者として結果は出していたつもりでも、チーム全体の流れや相手の配球意図まで読み切れていたかと言われると怪しい。

経営を始めてから、この「読み違い」がそのまま会社の命取りになることを何度も思い知らされた。特に痛感しているのが「黒字倒産」という現象だ。損益計算書の上では利益が出ている。取引先からの評価も悪くない。なのに、ある日突然、資金が尽きて倒産する。打率10割の打者が、なぜかゲームセットのコールを受けるような、理不尽な話だ。

数字が語る「静かな危機」

2025年度、全国の企業倒産件数は1万425件。前年度比3.5%増で、4年連続の増加、2年連続で年間1万件超えという状況になっている。上半期だけで見ても5,146件と、上半期としては実に12年ぶりに5,000件を突破した。

さらに見過ごせないのが、2024年に休業・廃業・解散した企業約6万9,000件のうち、51.1%が直近の損益では黒字のまま市場から退出しているという事実だ。半数以上が、決して「経営に失敗した」わけではなく、「資金が続かなかった」という理由だけで看板を下ろしている。

倒産理由の内訳を見ると、物価高倒産が963件、人手不足倒産が441件と、いずれも過去最多を記録した。人件費や原材料費の高騰、各種支援策の終了、金利上昇が同時に押し寄せ、体力のある企業でさえ資金繰りが追いつかなくなっている構図が浮かび上がる。

黒字倒産の正体は「タイミングのズレ」

黒字倒産の本質は、売上や利益の額そのものではなく、入金と出金のタイミングのズレにある。売掛金の回収が遅れる。取引先が予告なく倒れる。仕入れや外注費の支払いは待ってくれない。この時間差を埋めるだけの現金を手元に持っていなければ、帳簿上は黒字でも、現実には資金がショートする。

これは野球で言えば、スコアボード上は勝っているのに、選手交代のタイミングを誤って逆転を許すようなものだ。試合の「内容」がどれだけ良くても、「継続できるかどうか」を管理する監督の仕事を怠れば、勝ち試合を落とす。経営における資金繰り管理は、まさにこの「継投采配」に等しい。

自分自身、創業して間もない頃、大口の取引先からの入金が1か月半ずれ込んだだけで、外注先への支払いに頭を抱えたことがある。利益は出ていた。契約も順調だった。それでも、通帳の残高だけを見れば真っ青になる瞬間があった。あの時の冷や汗は、今でも忘れられない。

経営者がやるべき「素振り」は数字の可視化

野球で結果を出す選手は、例外なく素振りの量が違う。バットを振る回数がそのまま試合での反応速度に直結する。経営における「素振り」は何かと問われれば、自分は迷わず「日々の資金繰りの可視化」だと答える。

具体的には、月次の試算表だけでなく、週次・日次レベルでキャッシュの動きを把握することが重要だ。多くの中小企業が倒産に至る前に共通しているのは、「気づいたときには手遅れだった」というパターンだ。逆に言えば、早期に資金の流れの異変に気づければ、対策を打つ時間は必ず確保できる。

うちの会社では、以前は経理担当者が月末にまとめて数字を締めるスタイルだったが、今はクラウド会計ソフトを使ってリアルタイムに近い形で入出金を把握できるようにしている。銀行口座やクレジットカードの明細を自動で取り込み、仕訳の手間を大幅に減らせるだけでなく、「今、いくら現金があって、来月いくら出ていくのか」が一目で分かる状態を作れたのは大きい。手作業の集計に頼っていた頃は、異変への気づきが常に1〜2週間遅れていたと思う。

freee会計のようなサービスを使い始めてから、資金繰りの「予兆」に気づくスピードが明らかに変わった。数字を毎日見る習慣がつくと、売掛金の入金が数日遅れただけでも違和感を覚えるようになる。この違和感こそが、黒字倒産を防ぐ最初のセンサーだ。

「守りの采配」を怠るな

経営者としての采配は、攻めばかりが評価されがちだ。売上を伸ばす、新規事業を立ち上げる、事業を拡大する。どれも聞こえがいい。だが、どんなに攻めの采配が優れていても、守りの資金繰りが疎かなら、試合の途中で強制的にコールドゲームを言い渡される。

物価高と人手不足が同時に襲いかかる今の経営環境は、自分たちのような中小企業経営者にとって、間違いなく厳しい相場だ。だが、相場が荒れているときほど、日々の数字と向き合う地味な作業が生死を分ける。派手なホームランよりも、まずは塁に出ることを最優先に考える。それが今の時代の「勝ち方」だと自分は思っている。

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決算書の利益という「見た目のスコア」に安心せず、通帳の中身という「本当のスコア」を毎日確認する。それだけで、黒字なのに倒産するという理不尽な結末を、確実に遠ざけることができる。


出典
– 帝国データバンク「倒産集計 2025年度報(2025年4月〜2026年3月)」
– 東京商工リサーチ「2025年の倒産企業は、7割が“債務超過”」
– 起業の「わからない」を「できる」に「2025年上半期の企業倒産5,000件超えに」
– 一般社団法人 日本中小企業金融サポート機構「黒字倒産とは?」

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