「継がせる」も「継がせない」も決めていない自分に、後継者問題を語る資格はあるのか
先日、同業の集まりで一人の経営者が会社をたたむという話を聞いた。60代後半、業績が悪かったわけではない。ただ「継ぐ人間がいなかった」というだけの理由だった。
その場では「大変だったね」と当たり障りのない相槌を打ったが、帰りの車の中で妙に落ち着かない気持ちになった。自分はまだ44歳で、後継者について真剣に考えたことは一度もない。息子たちはまだ高校生だ。だが「まだ先の話」と思っているうちに、あの経営者のように60代後半になっているのではないか。そんな漠然とした不安が消えなかった。
中小企業の半分が「後継者不在」という現実

帝国データバンクの「全国『後継者不在率』動向調査」によると、2026年時点で日本の中小企業の50.1%が後継者不在の状態にある。2018年以降は改善傾向にあり、2023年の54.5%からは低下しているものの、依然として約半数の会社が「継ぐ人間がいない」状態のままだ。
出典:2025年版 中小企業白書 第9節 事業承継|中小企業庁
改善傾向にあるとはいえ、2社に1社という数字はあまりに大きい。自分の会社が「不在」側に入っていないと、今この瞬間に断言できる経営者がどれだけいるだろうか。
245万人という、避けられない世代交代の波
中小企業庁の資料では、2025年には70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人に達し、そのうち約127万社が廃業に追い込まれる可能性があると試算されている。
出典:事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について|中小企業庁
これは特定の誰かの問題ではなく、経営者という立場にいる自分たちが等しく向き合わなければならない、避けようのない世代交代の波だ。業種による二極化も進んでいるとされ、準備を進めている業界と、手つかずのまま取り残されている業界の差が年々開いているという。
「継がせたい」と「継がせられない」の間で揺れる
自分には高校生の息子が二人いる。正直に言えば、どちらかが会社を継いでくれたらという気持ちがまったくないわけではない。だが同時に、自分の人生を、自分が選んだわけでもない会社の看板に縛りつけたくないという気持ちも強くある。
現役時代、後輩に自分のポジションを譲る瞬間が来ることは分かっていても、実際にその日が来るまでは誰も本気で準備しなかった。バトンタッチというのは頭で理解していても、心が追いつくまでに時間がかかるものだ。事業承継も同じ構造を持っていると、今回の話を聞いて痛感した。
経営者が承継を先送りにする、よくある心理
①「まだ引退なんて考えられない」という現役意識。40代はまだ会社の成長を実感できる年代であり、引き際の話を自分から切り出しにくい。
②「後継者は自然に見つかるはず」という楽観。特別な行動を起こさなくても、いずれ誰かが名乗り出てくれるだろうという根拠のない期待。
③「話し合うこと自体が縁起でもない」という空気。特に家族経営に近い会社では、後継の話題そのものがタブー視され、誰も切り出せないまま時間だけが過ぎていく。
いずれも自分自身、身に覚えのある感覚だった。決算や資金繰りには厳しい目を向けてきたのに、この一点だけは見て見ぬふりをしていた。
今からできる、後回しにしない準備
①経営の状態を「見える化」しておく。誰が継ぐにせよ、あるいは第三者に譲るにせよ、財務状況が整理されていなければ話は前に進まない。自分はクラウド会計への切り替えを機に、月次の数字をいつでも人に見せられる状態にしておくことを意識するようになった。
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②「親族」以外の選択肢も視野に入れる。息子に継がせるかどうかを決めきれないなら、社内の人材への承継や、第三者へのM&Aという選択肢も並行して情報だけは集めておく。決めるのは先でいい。知らないまま歳を重ねることが一番のリスクだ。
③早いうちから「小さく」話し合う機会を作る。いきなり「会社を継ぐか」と重い問いを突きつける必要はない。日常の会話の中で、仕事の話や会社の話を自然にする機会を増やすだけでも、家族の中に土台ができていく。
4番打者としての結論
現役時代、チームには必ず次の4番打者がいた。自分が抜けても、誰かがバットを引き継ぎ、試合は続いていく。だが経営者という立場では、その「次の4番打者」を自分で見つけ、育てるところまでが仕事に含まれている。
継がせるかどうかを今すぐ決める必要はない。ただ、245万人という数字の中に自分がいずれ入ることだけは、もう見て見ぬふりができない事実として受け止めている。

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