副業の「20万円ルール」を勘違いしたまま副業を始めるのは、ノーサインでスクイズを仕掛けるようなものだ

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副業の「20万円ルール」を勘違いしたまま副業を始めるのは、ノーサインでスクイズを仕掛けるようなものだ

会社の経理から相談を受けた話がある。副業を始めた社員から「20万円以下だから確定申告はしなくていいですよね」と聞かれ、どう答えるべきか迷ったという。

自分は経営者として、日頃から社員には「副業は個人の自由だが、税金の話だけは自分で正確に把握しておけ」と伝えている。だが実際には、この「20万円ルール」を正しく理解している人は少ない。ノーサインでスクイズを仕掛けて、サードランナーが飛び出したのにバッターが空振りするような、噛み合わない事故が起きやすいポイントだからだ。

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正社員の1割以上が、すでに副業をしている

まず前提として、副業はもはや珍しい話ではなくなっている。パーソル総合研究所の2025年調査によれば、正社員の副業実施率は11.0%で、2018年の調査開始以来最も高い水準になった。企業側が副業を認める「副業容認率」も64.3%に達している。副業の時給は平均3,617円、中央値でも2,083円と、決して小遣い稼ぎの水準にとどまらない金額が動いている。

出典:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

つまり、自分の会社の社員の中にも、10人に1人以上は何らかの副業をしている計算になる。この人数の多さに対して、税金のルールを正確に理解している人の割合は、体感としてかなり低いというのが実感だ。

「20万円ルール」が指しているのは、所得税だけ

ここが一番の落とし穴だ。副業の所得が年間20万円以下であれば確定申告が不要、というルール自体は事実だ。ただしこれはあくまで「所得税」の話に限られる。

住民税には、この20万円以下なら申告不要という特例が存在しない。つまり副業の所得が1円でもあれば、本来は住民税の申告義務が発生する。確定申告をすれば、その情報は自動的に市区町村へ連携されて住民税にも反映されるが、20万円ルールを使って確定申告をしない場合は、別途、お住まいの市区町村へ住民税の申告を自分で行う必要がある。

ここで言う「所得」は「収入」ではない点にも注意が必要だ。所得とは、副業の収入から必要経費を差し引いた金額を指す。売上が25万円あっても、経費が10万円かかっていれば所得は15万円となり、20万円ルールの対象になり得る。逆に、経費をきちんと把握していないと、本当は申告不要のはずが「収入ベース」で誤解して余計な申告をしてしまうケースもある。

出典:freee「副業所得20万円以下でも確定申告と住民税の申告は必要?」

ノートパソコンでクラウドソーシングの画面を確認する手元

野球で言えば、これは「ルールの誤読による走塁ミス」だ

自分が高校時代、ノーアウト一塁でエンドランのサインが出ていたのに、バッターがヒットエンドランではなく普通のバントだと勘違いして送りバントを試みたことがあった。結果、ランナーは飛び出し、バットには当たらず、簡単にアウトになった。誰も悪気はない。ただサインの意味を正確に共有できていなかっただけだ。

20万円ルールも構造はまったく同じだと自分は思っている。「20万円以下なら何もしなくていい」というのは誤読で、正しくは「所得税の確定申告は不要だが、住民税の申告は別途必要」というのがサインの本当の意味だ。この誤読に気づかないまま数年間放置すると、後から住民税の申告漏れを指摘され、延滞金も含めてまとめて請求が来ることになりかねない。

会社の資金繰りでも、似たような「思い込みによる誤算」はよく起きる。入金予定日を「その月中」とだけ大まかに把握していて、実際の着金は翌月にずれ込み、支払いのタイミングで資金がショートしかける。細部のルールを正確に読まずに大枠だけで判断すると、痛い目を見るのはいつも同じパターンだ。

経営者側から見た「副業人材」という選択肢

少し視点を変えると、副業をする側だけでなく、副業人材を受け入れる企業側の話もある。パーソル総合研究所の同じ調査では、企業が外部の副業人材を受け入れる「副業受入率」は29.1%まで上昇している。自分の会社でも、専門的なスキルが必要な単発の業務を、副業として関わってくれる人材にお願いしたことが何度かある。

このとき経営者側として気をつけているのは、報酬を支払う側にも源泉徴収など税務上の義務が発生するケースがあるという点だ。副業人材を受け入れる側も、20万円ルールや住民税の仕組みを理解していないと、思わぬ事務ミスにつながる。雇う側・雇われる側、どちらの立場でも同じルールの理解が必要になる。

出典:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」

経費として計上できるものを、最初に洗い出しておく

「所得」が収入から経費を引いた金額である以上、経費をどこまで正確に把握できるかが、20万円ルールの対象になるかどうかの分かれ目になる。クラウドソーシングやスキルマーケットで在宅ワークをする場合、たとえば作業に使うパソコンの購入費用の一部、通信費、業務に関連する書籍代などが経費として認められる可能性がある。

ただし、プライベートと兼用しているものは、按分(業務で使った割合分だけを経費にする)という考え方が必要になる。ここを曖昧にしたまま「経費として全部落とせるはず」と思い込むと、後で税務署から指摘を受けるリスクが出てくる。分からない場合は、自己判断で処理せず、税務署や税理士に確認するのが結局は一番早い。

副業を始める前に、自分で確認しておくべき3点

自分が社員や、副業を検討している知人に伝えているのは、次の3点だ。

①「所得」の意味を正しく理解する。収入から経費を引いた金額であり、収入そのものではない。経費として何が認められるかも、事前にざっくりで良いので把握しておく。

②20万円以下でも、住民税の申告は必要と心得ておく。確定申告をしないなら、市区町村への住民税申告を忘れずに行う。分からなければ、お住まいの自治体の税務窓口に確認するのが確実だ。

電卓と領収書を整理する手元

③記録は最初から残す習慣をつける。副業の収入と経費は、後からまとめて計算しようとすると必ず抜け漏れが出る。簡単な家計簿アプリでもいいので、発生の都度記録しておく。

経営者として日々の記帳を社員に求めておきながら、自分自身の副業や個人の確定申告を後回しにしている人ほど、この3点を軽視しがちだと感じている。自分も人のことは言えず、若い頃は同じ失敗をした一人だ。

4番打者としての結論

副業という打席に立つこと自体は、悪いことでも特別なことでもない時代になった。10人に1人以上が、すでにその打席に立っている。だが、サインの意味を誤読したまま打席に入れば、せっかくのチャンスを自らつぶすことになる。

20万円ルールは「所得税だけの話」であり、住民税には別のルールが動いている。この一点さえ正確に理解していれば、余計なペナルティを避けられる。派手なホームランを狙う前に、まずはサインの意味を正確に読み取ること。それが、副業という新しい打席で結果を出すための、一番地味で、一番重要な準備だと自分は思っている。

※本記事は情報提供を目的としており、個別の税務判断を保証するものではありません。詳細はお住まいの市区町村や税務署、税理士にご確認ください。

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