会社という大勝負に人生を賭けているなら、個人の資産まで同じ賭けに乗せるな
自分は会社を経営している。毎日、大なり小なりのリスクを取って判断を下している。新しい取引先との契約、設備投資、人を採用するかどうか。どれも「当たれば伸びる、外せば痛手を負う」という意味で、バッターボックスに立ち続けているようなものだ。
だからこそ、以前の自分は個人の資産運用でも同じノリで勝負していた。集中投資、レバレッジを効かせたFX、値動きの荒い銘柄。本業でリスクを取っているのに、プライベートでも全力スイングを続けていた。今思えば、それは「守備を固めずに、全員で盗塁を仕掛け続けている」ようなチーム編成だったと思う。
経営者はすでに「本業」という一点集中投資をしている
冷静に考えれば当たり前の話だ。中小企業の多くはオーナー経営で、株主と経営者が同一人物というケースが大半を占める(出典: 中小企業庁 企業の統治構造の整備状況)。つまり経営者は、自分の時間・労力・信用のほぼすべてを、たった一つの会社という「銘柄」に注ぎ込んでいるようなものだ。会社の業績が個人の収入に直結し、会社の評判が個人の信用に直結する。これ以上ないほどの「集中投資」を、すでに本業でやってしまっている。
野球で言えば、四番打者が守備でも投手でもキャッチャーでも全部やろうとしているようなものだ。一人でチームの勝敗を背負いすぎている。だからこそ、個人の資産運用という「もう一つのポジション」では、あえて守備を固める必要がある。
「守りの資産」を作るという鉄則
資産運用の専門家がよく指摘するのは、経営者は本業ですでに十分なリスクを取っているのだから、個人の運用では株式と債券を組み合わせて価格変動を抑えた「守りの資産」を作るべきだという考え方だ(出典: マネハブ 経営者の資産運用)。特定の株式銘柄への集中投資、過度なレバレッジ、値動きの荒い資産への大きな張り込みは、経営者にとって典型的な失敗パターンとして挙げられている。
これは年金積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「1位になる資産は事前にはわからない」として、複数の資産に分散する意義を説明しているのと同じ理屈だ(出典: GPIF 分散投資の意義)。どの資産が来年一番伸びるかは、プロにも分からない。だから最初から複数に散らしておく。会社という一点集中で戦っている経営者ほど、この基本に忠実であるべきだと自分は思う。
自分がやっていた「間違ったフルスイング」
正直に告白すると、自分は数年前まで、個人の資産運用でも「大きく振って大きく当てる」やり方に惹かれていた。会社の資金繰りで神経をすり減らしている反動なのか、プライベートの運用くらいは一発逆転を狙いたくなる。その心理は、痛いほどよく分かる。
だが冷静に振り返れば、それは経営リスクの上にさらにレバレッジを重ねる、二重の集中投資だった。会社の業績が落ちたタイミングで、個人の投資も同時に沈む。まさに「一つの悪い流れが、全部の資産を巻き込んで沈没する」構造を自分で作っていたことになる。船を分けておかなければ、一つの穴で全員が沈む。
今、自分が意識している3つのこと
①値動きの異なる資産を組み合わせる。会社の業績と連動しにくい資産(債券や、業種の異なるインデックス)を意識的に組み入れるようにした。会社が絶好調のときに個人資産も絶好調、では分散になっていない。
②税制優遇制度は使い倒す。経営者だからこそ活用できる制度を後回しにしていた自覚がある。使える制度を放置するのは、四球を選ばずに毎回フルスイングして凡退するようなものだ。
③中立的な立場で相談できる相手を持つ。社内の人間や、商品を売りたい営業担当の意見だけを聞いていると、判断が偏る。利害関係のない第三者の視点を、年に一度でも入れるようにしている。
一度、自分の資産の「打線」を棚卸ししてみる

自分がやったのは単純なことだ。今持っている資産を紙に書き出し、「会社関連(自社株、会社への貸付金、退職金の見込みなど)」と「会社と無関係な資産(預金、株式、債券、不動産など)」に分けてみた。
やってみて驚いたのは、多くの経営者と同様、自分も資産の大部分が「会社関連」に偏っていたことだ。会社が順調なうちは気づきにくいが、これは打線で言えば四番から六番まで同じタイプの長距離打者を並べているようなものだ。相手投手に対策を立てられた瞬間、一気に沈黙する危険がある。棚卸しをしてみて初めて、自分がどれだけ偏った布陣を組んでいたかに気づいた。
「攻め」と「守り」は両方あって経営
会社を経営していると、攻めの意思決定にばかり評価が集まりがちだ。売上を伸ばした、新規事業を立ち上げた、そういう話の方が景気がいい。でも、どんなに打線が強いチームでも、守備が崩壊していれば勝てない試合はいくらでもある。
自分の資産をどう配分するかは、地味だが、経営そのものと同じくらい重要な意思決定だと思っている。本業で全力スイングをしているなら、せめて個人の資産は、球際に強い堅実な守備を敷いておく。それが、長く現役でいるための、自分なりの結論だ。


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