炎天下で鍛えた根性は、40代の体を守ってくれない。熱中症という「見えない敵」の正体

40代経営者と熱中症対策

炎天下で鍛えた根性は、40代の体を守ってくれない。熱中症という「見えない敵」の正体

7月に入って、朝の気温を見るだけでうんざりする日が増えた。今年もまた、記録的な猛暑になるらしい。

自分は高校時代、甲子園を目指して炎天下のグラウンドで来る日も来る日も白球を追いかけていた。真夏のノック、真夏の走り込み。水を飲むタイミングすら自分たちで判断させられなかった時代を生きてきた世代だ。あの頃は「根性があれば熱さなんて関係ない」と本気で思っていたし、実際に倒れずにやり切れていた。練習中に気分が悪くなった仲間がいても、「甘えるな」の一言で済まされる時代だった。

でも、44歳になった今の自分の体は、あの頃とは別物だ。先日、事務所からクライアント先まで炎天下を15分歩いただけで、めまいに近い感覚を覚えた。視界の端がチカチカして、一瞬「まずいな」と足を止めた。あのとき初めて、「自分はもう、あの頃の体じゃない」と腹の底から理解した。

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2025年、熱中症搬送者数が「初めて10万人」を超えた

まず数字を見てほしい。総務省消防庁のまとめによると、2025年5月から9月の熱中症による救急搬送者数は全国で100,510人となり、2008年の統計開始以来、初めて10万人の大台を超え、過去最多を更新した(出典: 総務省消防庁日本気象協会)。

年齢別に見ると、65歳以上の高齢者が57,433人で全体の57.1%を占め、確かに最も多い。ただし見逃せないのは、18歳以上65歳未満の「成人」層が33.9%を占めている点だ。つまり搬送された3人に1人以上は、自分たちのような働き盛り世代だということになる。しかも搬送者のうち中等症・重症で入院に至ったケースは36.4%にのぼる。「軽く汗をかいただけ」では済まない話だ。

発生場所の内訳も意外だった。最も多いのは「住居」で38.1%。次いで「道路」19.7%、「公衆(屋外の人が集まる場所)」12.1%と続く。炎天下のグラウンドや工事現場だけが危ないわけではない。エアコンをつけずに我慢している自宅の居間や、ちょっとした外出先の道端でも、人は熱中症で倒れる。むしろ「まさかここで」という油断した場所の方が危ないのかもしれない。

経営者として知っておくべき「義務化」の話

もう一つ、経営者の立場として見逃せないニュースがある。2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、職場における熱中症対策が罰則付きで義務化された(出典: freee厚生労働省 富山労働局)。

対象になるのは、WBGT(暑さ指数)28度以上、または気温31度以上の環境で、継続して1時間以上、かつ1日当たり4時間を超える作業が見込まれる現場だ。事業者には、①熱中症の自覚症状や異変に気づいた者が報告できる体制の構築と周知、②症状悪化を防ぐための離脱・冷却・受診などの実施手順の策定と周知、この2つが義務付けられている。対応を怠れば労働基準監督署の是正指導や罰則、さらに安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性もある。

これまでは「気をつけましょう」という努力義務だったものが、法的な義務に格上げされた。現場を持つ経営者なら、体制の整備は待ったなしだ。自分の会社でも、休憩時間の見直しと、体調不良を言い出しやすい空気づくりを、この夏から改めて徹底することにした。若手社員の中には「先輩が我慢してるから自分も」と無理をするタイプが必ずいる。それを止めるのも、経営者の仕事だと思っている。根性論で乗り切らせる時代は、もう法律上も終わったということだ。

「若い頃は平気だった」が一番危ない思考

野球をやっていた人間ほど、実はこの罠にはまりやすいと自分は思う。炎天下での練習に体が慣れていた成功体験が、逆に「自分は暑さに強い」という過信を生む。

だが体力というのは年々静かに目減りしていくもので、40代になれば発汗機能も、体内の水分を保持する力も、10代・20代の頃とは違う。頭では分かっていても、体感として「まだいける」と錯覚してしまうのが一番怖い。ピッチャーが肩の違和感を「まだ投げられる」と過信して肘を壊すのと、構造はまったく同じだ。違和感が出た時点で、もう手遅れになりかけているケースは少なくない。

熱中症も同じで、初期症状は意外と地味だ。めまい、こむら返り、なんとなく体がだるい、頭が重い。「ちょっと疲れてるだけだろう」で流してしまいがちな症状こそが、体からの最初の警告信号になる。自分はあの日、めまいを感じた時点ですぐに日陰に入り、持っていた水を一気に飲んだ。それがなければ、もっと悪化していたかもしれない。

自分が実践している3つの対策

デスクに置いた水分補給のボトル

難しいことをやるつもりはない。続けられることを、淡々とやる。それだけだ。

①喉が渇く前に飲む。渇きを感じた時点で、体はすでに水分不足のサインを出している。デスクに水を置き、1時間に一度は口をつけると決めた。会議中も遠慮なくペットボトルを置くようにしている。

②塩分・ミネラルを軽視しない。汗で失われるのは水分だけではない。経口補水液やスポーツドリンクを、麦茶や水と使い分けるようにしている。特に外回りの予定が続く日は、朝のうちに経口補水液を1本飲んでから出かける。

③「今日はやめておく」を恥じない。炎天下でのゴルフや外回りの予定を、体調と天気予報を見て平気でキャンセルするようになった。昔の自分なら「根性が足りない」と思っただろう。でも今は、無理して倒れて会社の予定を全部止める方が、よほど経営者失格だと思っている。試合を途中で棄権するピッチャー交代の判断と同じで、早めの決断が結局はチーム全体を守る。

「守り」も経営の一部だ

会社を経営していると、攻めの判断ばかりに目が行きがちになる。数字を伸ばす、新しい取引先を開拓する、事業を広げる。そういう「攻め」の話の方が、経営者としては気持ちがいい。だが、自分自身の体調管理も立派な経営判断の一つだ。社長が炎天下で倒れて救急搬送された、なんて話になれば、取引先やスタッフに与える動揺は小さくない。会社の信用にも関わる。

甲子園を目指していたあの夏、自分たちは「水を飲むな」と言われて育った世代だ。でも、あの根性論のままの体では、40代の夏は乗り切れない。今の自分に必要なのは、気合いではなく、淡々とした準備と、体からの小さなサインを無視しない謙虚さなんだと思う。

今年の夏も長くなりそうだ。社員にも、自分にも、無理をさせない。それも、経営者としての大事な采配のひとつだと思っている。

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