単価交渉で用意したいのは、分厚い資料よりも「何がいくら増えたので、いつから何円にしたいか」が伝わる1枚。公表データで値上がりの背景を示し、自社の計算で希望単価につなぐ。この二つを分けると、話がぼやけません。
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「1個あたりの増加額」をExcelで計算し、交渉用の1枚へまとめたい方へ。数式・関数や表の印刷を基礎から確認するなら、『できるExcel 2024』がおすすめです。
価格交渉の専門書ではなく、数字を計算し、読みやすい表にするための入門書です。この記事の差額表を自分で作るための基本操作を学べます。
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忙しいのに、月末になると手元にお金が残らない。現場は頑張っている。納期にも応えている。それなのに「この単価では苦しい」と切り出す場面だけ、言葉が弱くなってしまう。
値上げをお願いするのは、気が重いものです。ただ、苦しさを全部のみ込んでしまえば、次の賃上げも設備の手入れも、自分たちで削るしかなくなる。交渉を強気な言葉に変えるより、説明できる数字に変えたいところです。
この記事では、小さな製造業の受注側を想定して、単価交渉の根拠を1枚にまとめる方法を整理します。登場する金額はすべて説明用の仮定です。特定の会社の原価や、値上げが実現した事例ではありません。
「何%上がったか」と「何円上げたいか」は別の話

例えば、人件費が5%上がったとします。これを理由に販売単価も5%上げる、と直結させると、相手から「材料費まで5%増えたのですか」と聞かれたときに説明が止まります。
販売単価には材料費、労務費、その他の経費、利益などが含まれるからです。どこが動いたのかを分ければ、値上げの話はずっと具体的になります。
まず、最後に単価を決めた時点へ戻る
比べる相手は、何となく「去年」ではありません。今の単価を決めたときの条件です。単価を据え置いてきた期間が長いなら、その間の増加を説明する必要があります。比較の開始月と終了月をそろえ、数量や仕様も同じ条件で見ます。
公表資料は、労務費などが上がっている背景を説明する材料になります。公正取引委員会の労務費転嫁指針でも、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の結果など、公表資料を根拠に用いる考え方が示されています。社内の個人別給与を何でも開示する、という出発点ではありません。公正取引委員会の現行指針で確認できます。
一方、公表された上昇率だけで自社の希望額が自動的に決まるわけでもありません。「背景はこれです」「当社のこの製品では、こう影響します」と、二段階でつなぎます。
ここでの原価計算は、希望額を社内で検討するための方法です。詳細な自社原価の開示を、労務費交渉の前提にするものではありません。公表資料を用いる指針の考え方と、社内でどこまで計算するかは分けてください。
数字が拾えない項目は、推測で埋めない
材料単価は仕入見積、電力は契約や請求内容、作業時間は普段の製造資料など、手元の根拠を先に集めます。部門全体の費用を製品へ配分する場合は、数量で割ったのか、作業時間で割ったのかをメモしておく。あとから同じ計算に戻れることが大切です。
正確に分けられない経費を、都合のよい割合で上乗せすると資料全体が弱くなります。今回は説明できる部分を明示し、未整理の部分は追加資料に分ける。最初から全製品を完璧に仕上げようとせず、影響の大きい1品目から着手します。
1個1,000円の商品なら、希望単価までこうつなぐ

以下は、数量・仕様・作業方法が変わっていないと仮定した計算例です。現在の販売単価は税抜1,000円。前回の原価800円が870円になったとします。
| 1個あたり | 前回 | 今回 | 増加 |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 400円 | 440円 | 40円 |
| 労務費 | 300円 | 315円 | 15円 |
| その他の配賦経費 | 100円 | 115円 | 15円 |
| 原価合計 | 800円 | 870円 | 70円 |
この例で、1個あたりの差額200円を従来と同じだけ残すなら、希望単価は1,070円です。値上げ幅は70円、現在単価に対して7%。材料費が10%増えていても、販売単価の増加率が10%になるわけではないことが見えてきます。
「コストが上がったから」ではなく、「1個あたり70円増えたから、1,070円を希望する」。相手が持ち帰って説明するときも、こちらの意図が崩れにくくなります。
利益の「額」と「率」は混ぜない
ここでいう200円は、この表で扱った原価と販売単価の差額です。会計上の営業利益と同じとは限りません。また、差額率20%を維持したいなら、計算は870÷0.8=1,087.5円になります。70円の原価増加を説明する話と、従来の差額率を維持する話は分けて提案します。
1,070円の案を「利益率も維持できる」と説明してはいけません。逆に、率を維持する案にするなら、その狙いを隠さないこと。どちらが正解かは、必要な利益、継続に必要な投資、取引条件によって変わります。
数量が減って段取り費の負担が増えた場合や、検査項目が追加された場合は、費用上昇とは別に示します。材料費上昇と小ロット化を一つの率に丸めると、何を見直せば単価を調整できるのか、双方に分からなくなります。
例えば、段取りにかかる費用を1回5,000円と置くと、500個の注文では1個あたり10円ですが、100個なら50円です。これも仮定の例ですが、同じ仕事でも注文のまとまりが変われば負担は変わる、と説明できます。「単価を上げたい」だけでなく、「注文をまとめてもらえれば、この部分は抑えられる」という相談にもつながります。
ただし、相手の希望数量を無視して大きなロットを押しつけるのではありません。在庫の負担や保管場所も含めて、どちらにどんな費用が移るかを見ます。安く見せるために、費用を別の場所へ隠す資料にはしないことです。
上の金額・上昇率は架空の計算例です。実際の交渉では自社の根拠へ置き換え、二重計上、消費税込み・税抜きの混在、数量や仕様の違いを除いてください。この計算で合意額が保証されるわけではありません。
相手に渡す1枚と、自分たちの詳しい原価表を分ける

最初から給与台帳や仕入先別の明細を全部渡す必要はありません。社内用には詳しい根拠を持ち、相手へ渡す資料には協議に必要な内容を絞ります。守秘義務や第三者の情報もあるため、開示範囲は会社として判断します。
1枚の上段に「対象品目」「現在単価」「希望単価」「適用を希望する時期」。中央に、さきほどのような費目別の差額。下段には比較期間、参照した資料、数量や仕様の前提、打ち合わせたい内容。この順番なら、肝心の希望額が最後まで出てこない資料になりません。
資料の右上には作成日と版を付け、社内の窓口も決めます。営業が持つ数字と、現場が説明する数字が違うと、せっかくの根拠も疑われかねません。外へ出す前に担当者同士で1枚を読み合わせ、計算の元になった表は社内で一つにしておきます。
資料の見出しも「お願い」だけで終わらせず、「対象製品の単価改定についての協議依頼」など、何を相談したいのかが分かるものにします。書式をきれいに整えるのはその後。必要な数字と前提が読めることが先です。
| 伝え方 | ✕ 話が止まりやすい形 | ◯ 持ち帰って検討しやすい形 |
|---|---|---|
| 理由 | 何もかも高くなった | 比較期間をそろえ、費目ごとの増加を示す |
| 希望 | 少し上げてもらいたい | 対象品目・希望額・適用時期を明示する |
| 資料 | 社内明細を大量に添付する | 要約1枚と必要な根拠を分ける |
| 次の動き | ご検討ください、で終わる | 回答予定日や次回協議日を相談する |
中小企業庁は、価格交渉ハンドブックや費目別の交渉フォーマット、相談窓口をまとめて公開しています。自社様式がないなら、ゼロから作り込む前に、公式の価格交渉・転嫁支援ツールを確認してください。労務費や材料費などの根拠となる公表資料の一覧もあります。
添付するデータは、新しいものなら何でもよいわけではありません。比較したい期間、地域や業種の範囲、自社の費用との関係を確かめます。全国平均を、自社で実際に発生した費用と同じ数字として扱わない。出典名と対象期間を資料の端に添えるだけでも、説明が落ち着きます。
「難しい」と言われたら、金額だけを下げる前に聞く

相手の「難しい」には、いくつもの意味があります。増加額の根拠が伝わっていないのか。今期予算の問題なのか。担当者だけでは決められないのか。適用開始時期に困っているのか。理由を聞かずに希望額だけを引き下げると、必要な話が残ったままになります。
例えば、「どの費目について追加の説明が必要でしょうか」「適用時期が課題でしょうか、それとも改定額そのものの協議が必要でしょうか」と質問します。これは実際の会話の引用ではなく、話を分けるための言い回し例です。
段階的な改定や発注ロットの変更などを検討する余地があるなら、前提を一緒に書き直します。ただし、相手に合わせて品質や安全のための工程まで削る案は別問題です。価格を維持するために現場へ無理を押し戻していないか、経営側で見極めます。
その場の空気より、次に動ける記録を残す
協議後は、話した対象、提示した条件、合意した点、未合意の点、次の回答予定を短くまとめ、相手にも確認できる形で共有します。「検討する」を「値上げ決定」と記録しないこと。希望額と決定額を別欄にすれば、請求処理にも引き継ぎやすくなります。
協議の場自体が得られない、取引上の扱いに不安がある、といった場合は、資料を一人で作り直し続けるより、公的な相談窓口へ状況を伝える方法があります。個別の法的評価は、契約や取引関係によって変わります。記事だけで違法・適法を断定せず、記録を用意して相談してください。
まず今日やることは、全部の取引先へ一斉に値上げ通知を出すことではありません。影響の大きい1品目について、前回単価の条件を取り出し、増えた費用と希望単価を1枚に置くことです。交渉の入口を、気合いではなく具体的な提案へ変えましょう。
よくある質問(Q&A)
原価表が完成するまで交渉を待つべきですか?
完成を待って申し入れ自体を先延ばしにする必要はありません。協議したい理由と希望時期を伝え、説明できる根拠から整理します。未確認の数字を確定値として出さず、追加資料の提出時期を相談すると進めやすくなります。
公表された賃上げ率を、そのまま販売価格に掛けてよいですか?
影響額を社内で把握しておくと、希望単価を検討しやすくなります。この記事の計算例は、そのための一つの方法です。労務費交渉では公表資料を根拠に用いる指針を踏まえ、詳細な自社原価や個人の給与明細の提出が必須だとは考えないでください。
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次の交渉でも使えるよう、入力する数字と計算式を分けた表を手元に残しておきましょう。毎回ゼロから作り直さずに済む形を目指します。
表の修正や1枚に収める印刷でつまずく方は、『できるExcel 2024』で基本操作を確認できます。合意した価格を決める本ではなく、提案資料を自分で整えるための一冊です。
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