「体育会系だから根性がある」で採用した新人に、自分は何度裏切られてきたか
面接で「甲子園を目指していました」と聞いた瞬間、自分の中で評価が一段跳ね上がる感覚がある。同じ球児上がりとして親近感が湧くのは当然だが、経営者としてこれは危険な思考だと分かっていながら、何度も同じ轍を踏んできた。体育会系だから根性がある、挨拶がハキハキしているから仕事もできる。そうやって採用した人材に、後から何度も裏切られてきた経験がある。
「目立つ特徴」に評価全体が引っ張られる現象
心理学で「ハロー効果」と呼ばれる現象がある。ある対象を評価する際に、その対象者の目立った特徴に引っ張られて、他の項目についての評価まで歪んでしまう現象のことだ。目立つ特徴が良いものであれば他の評価項目も良いと判断され、逆に悪いものであれば他の項目も悪いと判断されてしまう。
出典:ミツカリ「採用面接時に発生するハロー効果の具体例と対策方法とは?」
面接という短時間の場では、応募者の「学歴」「話し方」「第一印象」といった目立つ要素が、実際の職務遂行能力とは無関係に評価全体を左右してしまう。自分が「体育会系だから」という理由だけで採用の背中を押されていたのは、まさにこのハロー効果そのものだったと今なら分かる。

野球のスカウティングでも、同じ罠がある
高校時代、対戦相手のスカウトが「フォームが綺麗だから将来性がある」という理由だけで、実際の打撃成績が振るわない選手を高く評価しているのを見たことがある。見た目の印象と、実際の結果が必ずしも一致しないのは、選手のスカウティングでも人材の採用でも同じ構造だ。
優れたスカウトほど、フォームの美しさという「目立つ特徴」に惑わされず、実際の数字とプレーの再現性を淡々と見る。人材採用における評価バイアス対策も、本質的にはこれと同じ話だと自分は思っている。感覚的な「良さそう」を、いかに具体的な評価基準に置き換えられるかが勝負になる。
ハロー効果以外にも、面接には複数のバイアスが潜む
採用の現場で問題になるのはハロー効果だけではない。最初に抱いた印象を裏付ける情報ばかりを無意識に集めてしまう「確証バイアス」、自分と似た経歴や価値観の応募者を高く評価してしまう「類似性バイアス」など、複数のバイアスが同時に働いている。
出典:サポネット「確証バイアスとは、採用選考や人材評価のエラーを防ぐポイント」
自分の場合、「元球児」という経歴を聞いた瞬間、その後の受け答えについても好意的に解釈しようとする自分がいることに気づいた。これは類似性バイアスとハロー効果が重なった、典型的な評価エラーだ。一度気づけば対策のしようがあるが、気づかないまま採用を続けていると、同じタイプの人材ばかりが集まり、組織の多様性が失われていく。
印象で採用したツケは、想像以上に高くつく
バイアスによる採用ミスは、単に「合わない人を採ってしまった」で済む話ではない。中途採用一人あたりの採用コストは平均で約103万円というデータがあり、中小企業における採用後3年間の離職率は、中途採用で約3割、新卒採用では4割を超えているという報告もある。
出典:リクルート就職みらい研究所「就職白書2020」、中小企業の採用ミスマッチを防ぐ方法
中小企業は大企業に比べて採用にかけられる人手も予算も限られている。一人の早期離職が現場の負担増や再募集のコストに直結し、既存社員への皺寄せや、想定外の育成コスト、空いたポジションによる機会損失まで含めれば、目に見える採用コスト以上の打撃を受けることになる。
自分の会社でも、「体育会系だから根性がある」という印象だけで採用した人材が、半年で辞めていったことが一度や二度ではない。そのたびに、募集から面接、教育にかけた時間と費用がまるごと消える。三振してもバットを振り直せる打席とは違い、採用の失敗は簡単にはやり直せないコストとして経営に重くのしかかる。
対策①:評価基準を先に言語化しておく
ハロー効果への対策として有効とされるのが、面接前に評価基準を職務記述書に基づいて明確化しておくことだ。「コミュニケーション能力」といった曖昧な項目のままにせず、「初対面の相手に業務の進捗を簡潔に説明できるか」といった具体的な行動レベルまで落とし込んでおく。
出典:HRC「面接官のバイアス対策|ハロー効果を防ぎ公平な採用を行う構造化面接の手法」
自分の会社でも、以前は「なんとなく良い感じがした」で採用可否を決めていた時期がある。今は面接前に評価項目を紙に書き出し、面接後にその場で点数をつけるようにしている。地味な作業だが、これをやるだけで「好印象に引っ張られた採用」がかなり減った実感がある。
対策②:構造化面接と複数面接官という仕組み
評価基準の言語化に加えて、全応募者に同じ質問を同じ順番で聞く「構造化面接」の導入や、複数の面接官で評価を突き合わせる仕組みも、バイアス対策として有効とされている。一人の面接官の主観だけに頼らず、複数の視点を掛け合わせることで、個人の思い込みが評価全体を支配するリスクを減らせる。
出典:ミツカリ「採用面接時に発生するハロー効果の具体例と対策方法とは?」
野球のドラフト会議でも、一人のスカウトの評価だけで指名を決める球団は少ない。複数のスカウトが独立して評価し、その結果を突き合わせてから最終判断を下す。人材採用も本来、同じプロセスを踏むべきだと自分は考えている。

対策③:適性検査という「客観的なデータ」を併用する
面接官の主観的な印象だけに頼らず、適性検査などの客観的なデータを併用することも、バイアスを減らす有効な手段とされている。感覚的な評価と、数値化されたデータの両方を突き合わせることで、「なんとなく良さそう」という判断だけで採用してしまうリスクを下げられる。
自分の会社の規模では大掛かりな適性検査の導入は難しいが、簡易的なチェックリストや過去の職務経歴に基づく質問だけでも、印象評価に偏りすぎるのを防ぐ効果はあると感じている。
採用後も、印象と実績を照らし合わせる習慣を続ける
バイアス対策は面接の場だけで終わりではないと自分は考えている。採用してからも、面接時に抱いた印象と、実際の業務での振る舞いを定期的に照らし合わせる習慣を続けることが大事だ。「面接では好印象だったが、実際の業務ではどうか」を試用期間中に具体的な行動ベースで振り返ることで、次の採用における評価基準の精度も上がっていく。
自分の会社では、試用期間終了時に「面接で評価した項目」と「実際の業務で見えた姿」を並べて比較する簡単なシートを作るようにしている。ズレが大きかった項目があれば、それは次回の面接で聞き方を変えるべきポイントだと分かる。スカウティングの精度は、実際の結果と照らし合わせ続けることでしか上がらない。これは選手評価も人材評価も同じだ。
4番打者としての結論
「体育会系だから根性がある」という評価は、自分にとって心地よい思い込みだった。同じ経験をしてきた人間だからこそ分かり合えるという感覚は否定しないが、それと採用の合否を直結させるのは、まったく別の話だ。ハロー効果は、良い特徴にも悪い特徴にも同じように働く、誰にでも起こりうる評価の歪みだと自分は理解している。
評価基準を先に言語化する。構造化面接と複数の目で評価を突き合わせる。客観的なデータも併用する。この3つを地道に積み重ねることでしか、面接官の思い込みという名のクセ球を、正しく見極めることはできない。フォームが綺麗な選手が、必ずしも打率の高い選手とは限らない。それを一番よく分かっているはずの自分が、面接の場では何度も同じ見逃し三振を繰り返してきた。この自覚こそが、次の採用を変える最初の一歩だと自分は思っている。

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