バットを長く持とうとして、下の手の小指をグリップエンドにかける。反対に、小指までグリップの上へ置く。どちらが正解なのでしょうか。
先に結論を言うと、研究から万人共通の正解は決められません。まず分けたいのは、次の三つです。
- グリップエンドがフレア型かストレート型か。
- 下の手の小指がグリップの上、エンドの上、またはエンドから離れた位置にあるか。
- スイングを振り切るか、途中で止めるか。
形状、小指の位置、止め方は別の変数です。
2026年に日本で公開された研究はフレア型とストレート型を比べました。ただし、形状に合わせて握らせ方も変えています。2021年の別研究は、小指位置だけでなく、振り切るスイングと途中で止めるスイングを組み合わせました。さらに別の2021年研究は、バットのノブが手のひらの内側に入るか外側にあるかを比べています。
三つは似て見えますが、同じ実験ではありません。この記事では、何を変え、何を測り、何がまだ分からないかを一つずつほどきます。
先に結論:小指をかけるか決める前に、三つの欄を作る

「小指をかける」という言葉だけでは、握りを特定できません。
たとえば、なだらかに太くなるフレア型を手全体で包む選手がいます。ストレート型のノブへ小指の外側を当てる選手もいます。小指をバット軸から外し、ノブの上へ置く選手もいます。見た目は近くても、手とエンドが接する場所は同じではありません。
さらに、振り切る動作と、途中で急に止める動作では、バットを減速させる場面が違います。握りの話だけをしたいのに、スイングの止め方まで変われば、結果の理由を一つへ絞れません。
そのため、最初に次の三欄へ分けます。
- 形状:フレア型/ストレート型/判別できない
- 小指位置:グリップ上/エンド上/エンドより下/判別できない
- 動作:振り切る/途中で止める/その他
この三欄はフォームの点数表ではありません。研究条件を読み違えず、自分の握りを同じ言葉で残すためのメモです。
「フレア型」と「小指をかける」は同じ意味ではない
フレア型は、グリップの末端へ向かって、なだらかに太くなる形です。ストレート型は、握る部分の太さが比較的一定で、末端のノブが段差として見えます。
ここで注意したいのは、形は道具の特徴で、小指位置は人の握り方だということです。
同じフレア型でも、手全体で包む人、小指をエンドの上へ置く人、小指までグリップ軸へ残す人がいます。同じストレート型でも、小指外側をノブへ当てる人、少し上を持つ人、ノブを手のひらへ入れる人がいます。
研究で「フレア型とストレート型に差があった」と読んでも、形だけが原因とは限りません。握らせ方も変わっていれば、二つの違いが重なっています。
この区別が、2026年研究を読む中心です。
堀内・長野2026年研究:比べたのは形状だけではない
2026年6月25日にJ-STAGEで公開された堀内元・長野明紀の研究は、大学硬式野球部の男子25人を対象にしました。右打ち14人、左打ち11人。平均年齢は19.8歳、競技歴は11.6年です。
選手は、フレア型とストレート型の硬式木製バットで、最大努力のティー打撃をそれぞれ50回行いました。50回は10回ずつ5セットに分け、セット間に3分休みました。二つの条件の間は48時間以上空けています。
バットは、長さ、質量、重心位置、慣性モーメントを可能な限り近づけました。フレア型は長さ841 mm・質量897 g、ストレート型は839 mm・893 gです。形以外の道具差を小さくしようとした設計です。
形状ごとに握らせ方も変えた
大切なのはここです。
研究では、フレア型を「グリップエンド側の手全体でエンドを包む」ように握らせました。ストレート型は「グリップエンド側の手の小指外側を、エンドの凸部へ密着させる」ように握らせています。
つまり、変わったのはエンドの形だけではありません。
- フレア型+手全体で包む握り
- ストレート型+小指外側をノブへ当てる握り
この二つの組み合わせを比べています。
著者自身も限界として、別の組み合わせには言及できないと書いています。たとえば、フレア型をストレート型のように握る場合。反対に、ストレート型で小指を凸部へ乗せ、手全体で包む場合です。
したがって、この研究を「ストレート型の結果」とだけ呼ぶのも、「小指をかけた結果」とだけ呼ぶのも正確ではありません。形状と握らせ方が組になった比較です。
差があった指標、なかった指標
研究は、バットグリップへ作用する力とトルクを逆動力学で計算しました。
インパクト時のスイング軸回りトルクは、フレア型が−25.2±14.8 Nm、ストレート型が−28.7±16.2 Nmでした(p=0.018)。スイング開始からインパクトまでの負の角力積も、−0.454±0.267 Nm・s対−0.520±0.329 Nm・sでした(p=0.021)。負方向は、バットの回転を減速させる方向として解釈されています。
一方、バット長軸方向の力は757.9±73.4 N対769.9±83.0 Nで、有意差はありませんでした(p=0.075)。その力積も有意差なしです(p=0.135)。
スイング指標も、差が確認されませんでした。
- バット速度:30.1±1.5 m/s対29.9±1.6 m/s(p=0.051)
- アタック角度:4.4±6.3度対4.3±6.3度
- アタック方向:−7.3±5.1度対−7.8±4.5度
- スイング軌道傾斜:20.4±4.7度対20.5±4.5度
- スイング長:2.9±0.2 m対2.8±0.2 m
「トルク指標に差があった」ことと、「打撃成績が良い」「必ずけがをする」は別です。測定中に有鉤骨骨折が発生したわけでも、シーズン中の骨折率を追跡したわけでもありません。
研究の限界を先に読む
対象は大学選手25人で、実験室のティー打撃です。投手の球へタイミングを合わせる試合打撃とは違う可能性があります。空振りやファウルチップ、インパクト後のフォロースルーも、この研究の中心ではありません。
さらに25人中18人は、普段フレア型を使っていました。形状への慣れが結果へ影響した可能性を、この研究では調整していません。
研究は力学的な手掛かりを示しました。しかし、子どもの正解グリップ、個人の骨折確率、道具変更による予防効果までは示していません。
Flynn 2021年研究:小指位置と「止め方」を組み合わせた
Flynnらの研究は、米国のNCAA Division Iに所属する男子大学選手14人を対象にしました。平均年齢は19.6歳です。
握りは三つです。
- all on:すべての指をノブより上のバット軸へ置く。
- one off:ボトムハンドの小指をバット軸から外し、ノブの上へ置く。
- choked up:ボトムハンドをノブから3.75 cm上へ置く。
これに、振り切るfull swingと、途中で止めるcheck swingを組み合わせました。合計6条件です。
手のひらの有鉤骨付近に小型圧力センサーを置き、圧力と手首運動を測りました。ここでは小指位置を扱っていますが、同時に「止め方」も扱っています。
最高だったのはone off×check
ピーク圧が最も高かったのは、小指を外し、途中で止めるone off×checkでした。平均3.72±2.64 kg/cm²です。
これは、all on×fullの1.36±0.73、one off×fullの1.68±1.17、choked up×fullの1.18±0.96 kg/cm²より有意に高い結果でした。
ここから「小指を外すと高い」とだけ抜き出すと、check swingを落とします。one offでも、振り切る条件は1.68、止める条件は3.72でした。小指位置と止め方の組み合わせを保ったまま読む必要があります。
圧力発達速度は6条件全体で差がありましたが、事後比較ではどの条件間かを特定できませんでした。センサーの湿気問題により、ピーク圧では2人分が解析から外れています。
そして、圧力は骨折した人数ではありません。著者も、どの圧力パターンや発達速度が臨床的な骨折へつながるかは不明と述べています。参加者が普段どの握りを好んでいたかも記録されていません。
Alexeev 2021年研究:ノブが手のひらの内か外か
同じ2021年でも、Alexeevらの研究は別の比較です。
対象は、NCAA Division Iの2チームから参加した大学選手9人。普段、一般的な握りだけを使う5人、ノブを手のひらへ入れるpalmar hamate gripだけを使う3人、普段から両方を使う1人でした。
選手は同じバッティンググローブと圧力センサーを使い、70 mphのボールマシンを打ちました。集めたのは計99打球です。一般的な握りが54、palmar hamate gripが45でした。
この研究の違いは、小指が一本外れているかだけではありません。バットのノブが、手のひらの内側へ入るか、手のひら外側の尺側にあるかです。
平均圧は、palmar hamate gripが536.42 kPa、一般的な握りが115.84 kPaでした。論文は366%増と報告しています。普段から両方を使う1人でも、482.90対142.40 kPaでした。
大きな差に見えますが、標本は9人です。研究者は選手を無作為に二つの握りへ割り付けていません。安全上、普段と異なる握りをさせなかったためです。両方を使った同一人物比較は1人だけです。
選手ごとの握りの細部と手の形も違います。この研究も圧力を測ったもので、骨折発生率や子どものフォームを調べたものではありません。
三研究を横に並べると、違いが見える

三つの研究を「グリップ研究」と一括りにせず、何を変えたかで並べます。
堀内・長野2026
- 対象:大学硬式野球部の男子25人
- 変えたもの:フレア型/ストレート型
- 同時に変わったもの:形状に合わせた握らせ方
- 測ったもの:グリップへ作用する力・トルク、スイング指標
- 答えないこと:同一形状で小指位置だけを変えた結果、骨折率
Flynn 2021
- 対象:NCAA Division Iの男子14人
- 変えたもの:三つの指位置
- 同時に変えたもの:振り切る/途中で止める
- 測ったもの:有鉤骨付近の圧力、手首運動
- 答えないこと:普段の握りでの長期結果、骨折率
Alexeev 2021
- 対象:NCAA Division Iの大学選手9人
- 変えたもの:ノブが手のひら内/外
- 同時に違うもの:選手ごとの普段の握りと手の形
- 測ったもの:有鉤骨付近の圧力
- 答えないこと:無作為に割り付けた効果、子ども、骨折率
共通して言えるのは「この握りが正解」ではありません。条件を混ぜると誤読する、ということです。
3分でできる安全な静止観察

研究の数字へフォームを合わせる代わりに、今の握りを同じ言葉で残します。打つ必要はありません。
準備
- ボールを置かない。
- バットを振らない。
- 人、通路、家具から十分離れる。
- バットを床へ横置きするか、ヘッドを地面につけて静止する。
- 撮影するなら、顔、チーム名、学校名、位置情報が写らないようにする。
手順1:道具だけを見る
手を置く前に、グリップエンドの形を見ます。
- なだらかに広がる:フレア型
- 末端に段差のあるノブ:ストレート型
- 判断しにくい:判別できない
メーカー名やモデル名を推測で書く必要はありません。見えている形だけを残します。
手順2:いつもの位置へ手を置く
ボトムハンドだけを、普段の位置へ静かに置きます。力いっぱい握らず、スイングもしません。
横から写真を1枚撮るか、次の言葉で記録します。
- 小指までグリップ軸の上
- 小指がノブ/エンドの上
- 小指がエンドより下
- ノブが手のひら内へ入る
- 判別できない
小指位置とノブの接触位置は、同じ欄へ押し込まなくて構いません。必要なら二欄に分けます。
手順3:評価語を書かない
「良い」「悪い」「危険」「飛ぶ」は書きません。
書くのは、見えた形と位置だけです。
形状:ストレート型
小指位置:エンド上
ノブの接触:手のひら内か判別できない
動作:静止、スイングなし
この記録だけで、打撃成績やけがを予測することはできません。しかし、道具を替えたとき、握りを話し合うとき、同じ言葉で比較できます。
三欄メモを残す道具の選択肢
形状・小指位置・動作の三欄を残すだけなら、専用ノートは不要で、手持ちの紙でも十分です。店頭やチームの許可された試打で片手書きしやすい道具が必要な人には、硬い表紙と3mm方眼の小型ノートが記録の補助になります。これは握りの正解、打撃改善、けが予防を示す商品ではありません。
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道具を試すなら、一度に一つだけ変える
店頭やチームの許可された試打で比較する場合も、形と位置を混ぜない方が分かりやすくなります。
たとえば、形状を比べたいなら、小指位置まで同時に変わっていないかを記録します。小指位置を比べたいなら、同じバットで位置だけが変わったかを確認します。ただし、痛みや違和感を我慢して試し続けるものではありません。
ここでの目的は「最高の握り」を一回で決めることではありません。何を変えたか分からなくなるのを防ぐことです。握りを変えた結果を、飛距離やけが予防の保証へ変えないでください。
子どもへそのまま当てはめない
三研究の対象は大学選手です。堀内研究の平均年齢は19.8歳、Flynn研究は19.6歳。Alexeev研究もNCAA Division Iの選手です。
小学生や中学生では、手の大きさ、指の長さ、握力、使用バットの径と重さが違います。大学選手の圧力やトルクを、そのまま子どもの安全基準、理想の指位置、使用禁止の線へ変換できません。
「小指をかけられないから下手」「この形なら安全」と決めないことが大切です。子どもが無理に手をずらし、重いバットを振る理由にもしてはいけません。
痛みや違和感がある場合は、研究の平均と比べない
この記事は一般的な研究解説で、診断や復帰判断ではありません。
手のひら、小指側の手首、握る動作で痛みや違和感がある場合は、握りを何種類も試して原因を探さず、打撃を止めます。未成年なら保護者と指導者へ伝え、必要に応じて適切な医療の専門家へ相談してください。
圧力の数値と自分の痛みを比べても、骨折の有無、原因、投球・打撃の可否は分かりません。研究の平均値を「これ以下なら安全」という基準にしないでください。
観察を打撃へ広げたい人へ
握りの形と小指位置を静止状態で分けて記録した後、同じ条件でティー打撃の変化を一つだけ観察したい人には、「ティー打撃を9マスで観察する手順」が次の候補です。この関連記事はカメラ位置と一変数観察を扱い、用具購入なしでも手順が完結しますが、一部に用具の広告リンクを含みます。握りの正解やけが予防を示す記事ではないため、不要ならこの章は飛ばしてください。
よくある質問
小指をグリップエンドにかけるのは間違いですか?
研究だけで一律に間違いとは言えません。どの形状で、小指とノブがどこにあり、振り切るのか途中で止めるのかによって条件が違います。まず静止状態で形状と位置を分けて記録します。
フレア型なら手への負担が小さいですか?
堀内研究では、フレア型+手全体で包む握りと、ストレート型+小指外側をノブへ当てる握りを比べ、減速方向のトルク指標に差がありました。形状だけの効果ではなく、骨折発生率や個人の安全性も検証していません。「フレア型なら安全」とは言えません。
ストレート型で小指をノブへ乗せてよいですか?
堀内研究は、その握りの組み合わせを直接検証していません。著者も今後の課題としています。道具の形と小指位置を別々に記録し、痛みや違和感を伴う試行はしません。
Flynn研究では、小指を外すと圧力が上がったのですか?
最高だったのはone offとcheck swingの組み合わせです。小指位置だけでなく、途中で止める動作が入っています。one offでも振り切る条件は別の値でした。小指だけの結論へ縮めないことが大切です。
366%増なら、その握りは危険ですか?
Alexeev研究の9人で測った平均圧の比較です。無作為比較ではなく、骨折した割合でもありません。大きな差は注意して読む価値がありますが、個人の危険率や禁止基準には変換できません。
子どものバット選びに使えますか?
三研究は大学選手が対象です。子どもの手の大きさや用具条件へ直接一般化できません。少なくとも「形状」「小指位置」「手の大きさとバット径」を混ぜず、無理に握りを合わせないという読み方に限ります。
まとめ:形状、小指位置、止め方を一つの答えにしない
バットの小指をグリップエンドにかけるのが正解か。この問いへ、研究は一語で答えていません。
- 堀内・長野2026は、フレア型+包む握りと、ストレート型+小指外側をノブへ当てる握りを比較した。
- Flynn 2021は、三つの指位置と、振り切る/途中で止めるを組み合わせた。
- Alexeev 2021は、ノブが手のひら内へ入るか外側にあるかを、普段の握りで比べた。
だから、持ち帰る行動はフォームの即変更ではありません。
ボールなし、スイングなしの静止状態で、形状と小指位置を別々に記録する。
研究条件を分けて読めば、「形の結果」を「小指だけの結果」へ変える誤読を防げます。痛みや違和感がある場合は研究の平均と比べず、打撃を止めて適切な相談先へつないでください。
参考資料
- 堀内元・長野明紀「グリップ形状の違いが野球のバッティングに及ぼす影響」J-STAGE(日本語・外部サイト)
- Flynnほか「Swing Type and Batting Grip Affect Peak Pressures on the Hook of Hamate」PMC(英語・外部サイト)
- Alexeevほか「Pressures Exerted on the Hook of the Hamate in Collegiate Baseball Players」PMC(英語・外部サイト)
※本記事は研究条件を整理する一般的な情報です。個人の診断、フォーム処方、けが予防保証、打撃継続・復帰判断を行うものではありません。

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