いびきは、豪快に眠れている証拠ではない。
自分が一番怖いと思うのは、家族から「昨日もすごかったよ」と言われても、笑い話で終わらせてしまうことだ。会社の数字なら、いつもと違う動きを見つけた瞬間に原因を調べる。ところが自分の体となると、「疲れているだけ」「太ったから仕方ない」で決算を先送りする。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりする病気だ。本人は寝ているので異変に気づきにくい。日本呼吸器学会によると、成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%にみられ、男性では40〜50歳代が半数以上を占める。
40代は、仕事でも家庭でも簡単にはベンチへ下がれない年代だ。だからこそ、夜の呼吸を「ただの音」で済ませないほうがいい。
いびきは、眠れている音ではなく気道が狭い音かもしれない

いびきだけで睡眠時無呼吸と決まるわけではない。ただし、習慣的ないびきに加えて、家族から呼吸の停止を指摘された、睡眠中に息苦しくて目が覚める、朝に頭痛や喉の乾きを感じる、日中に強い眠気がある。こうしたサインが重なるなら、放置しないほうがいい。
閉塞性睡眠時無呼吸では、眠って筋肉が緩んだときに、空気の通り道である上気道が狭くなる。呼吸が止まると血液中の酸素濃度が下がり、眠りが分断される。ベッドに長くいたのに、体は何度も小さく起こされているような状態だ。
野球にたとえるなら、九回までグラウンドに立っていても、守備のたびに集中が切れていたら「フル出場」とは言えない。睡眠も同じで、時間だけでは中身が分からない。
日本睡眠学会は、睡眠中の習慣的ないびき、呼吸中断、喘ぎのほか、起床時の喉の乾燥や頭痛、日中の眠気などを挙げている。そして大事なのは、本人の自覚だけでなく、そばで寝ている人の観察だとしている。
「自分は昼間に眠くないから大丈夫」とも言い切れない。日本呼吸器学会は、日中の眠気が全例に出るわけではないと説明している。眠気が目立たなくても、夜間頻尿、熟睡感のなさ、倦怠感など、別の形で現れることがある。
「太っていないから大丈夫」は守備範囲が狭すぎる
睡眠時無呼吸と肥満の関係は深い。首まわりに脂肪がつくと、上気道は狭くなりやすい。
ただ、肥満だけが原因ではない。扁桃が大きい、舌が大きい、鼻炎や鼻中隔の問題がある、あごが小さい、あごが後ろへ下がっているといった体の特徴でも起こりうる。見た目が細いから対象外、という単純な話ではない。
自分たち元球児は、現役時代の体の記憶を引きずりやすい。「昔は走れた」「体力には自信がある」という感覚は、40代の今夜の呼吸を保証してくれない。過去の打率を持って、今日の打席に立つようなものだ。
さらに、睡眠時無呼吸は単に朝がつらいだけの問題ではない。日本呼吸器学会は、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などとの関連を示している。厚生労働省の健康情報サイトも、重い状態を放置すると生活習慣病や眠気による事故などにつながるとして、ひどいいびきや呼吸停止がある場合は医療機関で検査・治療を受けるよう案内している。
ここで怖がりすぎる必要はない。いびきがある人全員が重症という意味ではない。大切なのは、音の大きさだけで自分を診断せず、気になるサインがあれば検査で確かめることだ。
日中の眠気は、経営判断の「見えないエラー」になる

睡眠が細切れになると、日中の作業効率が落ちる。居眠り運転や労働災害につながる危険もある。
経営者の場合、問題は「眠くて仕事にならない」と分かりやすく出るとは限らない。メールの読み違い、数字の見落とし、会議での判断の遅れ、いつもなら流せる一言への苛立ち。ひとつずつは小さくても、会社のハンドルを握る人のミスは、後ろにいる従業員や家族まで揺らす。
打者がボールを見失ったまま「気合で振れば当たる」と考えるのは危ない。眠気も同じだ。コーヒーで一時的に目を開けても、夜間の呼吸が原因なら、根本の確認にはならない。
特に、運転中や機械作業中に眠気を感じる場合は、無理に続けないことが先だ。仕事を止める勇気も、経営判断の一つだと思う。
家族から呼吸停止を指摘されたら、その言葉を「うるさいと言われた」と受け取るのではなく、無料のスカウトレポートだと考えたい。本人には見えない夜の状態を、最も近くで観察してくれている。
検査は、いきなり大がかりな入院とは限らない

睡眠時無呼吸が疑われる場合、医療機関では問診に加え、携帯型装置を使った簡易検査や、睡眠中の呼吸・酸素状態などを詳しく調べる睡眠ポリグラフ検査(PSG)が行われる。
「検査となると仕事を何日も空けるのでは」と構えてしまうが、まずは自宅でできる簡易検査から始まる場合もある。どの検査が適切かは症状や医療機関によって異なるので、自己判断で機器を選ぶのではなく、呼吸器内科、耳鼻咽喉科、睡眠外来などへ相談するのが現実的だ。
診断では、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数を示すAHIなどが使われる。治療も一律ではない。体重管理、寝る姿勢の調整、口腔内装置、CPAPなどがあり、原因と重症度に応じて医師が判断する。
ここで順番を間違えたくない。
「いびき対策グッズを先に買う」ではなく、「何が起きているかを確かめる」が先だ。会社で売上が落ちたとき、原因を見ずに広告費だけ増やしても立て直せない。体も同じで、診断の前に治療法を決めつけないほうがいい。
受診時には、家族から言われた内容、いびきや呼吸停止の頻度、朝の頭痛や口の渇き、夜中に起きる回数、日中の眠気、服用中の薬などをメモしておくと伝えやすい。可能なら、家族にも「止まっているように見えた時間や様子」を聞いておく。
今夜からやることは、我慢ではなく観察だ
今夜から自分でできるのは、病名を決めることではない。サインを雑に扱わないことだ。
- 家族に、いびきだけでなく呼吸が止まって見えることがあるか聞く
- 起床時の頭痛、口の渇き、夜間頻尿、熟睡感、日中の眠気を数日メモする
- 運転や危険作業に影響する眠気があれば無理をしない
- 複数のサインが続く、または呼吸停止を指摘されたら医療機関へ相談する
40代の体は、突然裏切るというより、小さなサインを何度も出していることが多い。そのサインを「まだ試合には出られる」で握りつぶすか、「一度ベンチで状態を確認しよう」と考えるか。
経営者に必要なのは、休まない根性ではない。長く打席に立つために、異変を早めに拾う判断力だ。
いびきは笑い話で終わることもある。だが、呼吸停止や朝の不調、日中の眠気が重なるなら、夜の体から届いた警報として受け止めたい。
※この記事は一般的な健康情報であり、診断や治療の代わりではありません。症状がある場合は医療機関へ相談してください。
出典(2026年7月26日確認)

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